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【あか】変革か伝統か。(前編)

国内最多19冠。Jリーグ発足以降の最低順位11位。
30年間日本サッカーの強豪クラブとして戦ってきた鹿島アントラーズ。

”ジーコスピリッツ”、勝者のメンタリティ、勝負強さ。色々な呼び方をされる鹿島の言葉で表せない”強さ”。そんな鹿島が、2018年のACL優勝以来優勝以来”勝利”から遠ざかっている。国内タイトルに至っては2016年のリーグ優勝以来獲得できていない。

多くのクラブにとっては不思議なことではないこの状態が、鹿島にとっては異常事態なのはある意味誇り高い事ではあるが、それでも危機感は拭えない。彼らは鹿島アントラーズだから。

その背景には、日毎に進化するサッカーというスポーツに鹿島がついていけていない現状があると私は感じている。

名門ゆえの苦悩

トラッキングデータや情報の流通など、様々なデータ分析で日々進化するサッカーというスポーツ。最早サッカーの神様ペレが語った「自分が11人いればそれが世界最強のチーム」という言葉は廃れてしまう現状。

的確な位置に適切な選手を配置し、目的を明確化し共有する。チームの成熟度が、個人の技術を飲み込んでいった現代サッカー。

これまで伝統の4−4−2を中心にどんな相手にもどっしりと構える”横綱相撲”的サッカーで勝利を掴んできた鹿島には、苦しい時代になってしまった。

横浜F・マリノスはポステゴグルーの下、シティグループの技術を駆使し進化を遂げた。もちろん初めのシーズンはこれまでのチームを破壊していく段階だったので、苦難のシーズンを送った。ハーフラインから飯倉やパクイルギュの頭上を超すシュートはマリノスに立ち向かう上で一つのカードになったいた。それでも貫いた攻撃的サッカーは2年目にリーグ優勝を果たした。

しかし鹿島の場合、じゃあやってみようとはできない。今のままでもそこそこは勝ててしまうからだ。優勝後の2017年からのリーグ順位は、2位・3位・3位・5位・4位と上位をキープしている。

名門ゆえに有望な若手を中心に国内でも有力な選手が集まってくる。個人戦術と高いインテンシティをキープするチームは、それだけでも年間通して上位を獲得できる”強さ”を守り続けてきた。

だからこそ、変革に伴うリスクが重くのしかかってしまうのだ。

ザーゴが目指した変革”ポゼッションサッカー”

「鹿島は生まれ変わる」と、ファンサポーターが身を乗り出したのは2020年だった。ブラジル人監督ザーゴはプレシーズンの段階で「ボールを保持して試合を支配する」と明言。とうとう鹿島にも変革の時が来たのかと、誰もが思った。

川崎Fから奈良竜樹、湘南から杉岡大暉、仙台から永戸勝也、横浜FMから広瀬陸斗、名古屋から和泉竜司が加入し、確実に生まれ変わると胸を躍らせた。

シーズン開幕から”当たり前”の我慢の時期が始まった。戦術の浸透が曖昧で、これまで個人技で打開してきた選手たちはボールを受ける位置やボールの受け手を探す時間がかかってしまう。ゴールキックから繋ぎを試みるも、ノッキングして窮したセンターバックは結局目的もないロングボールに逃げてしまう。

開幕から4戦で得点がオウンゴールの1点にとどまり、クラブワーストの開幕4連敗。7節終了時点で最下位に沈むなど、経験したことのない”弱い鹿島”を晒してしまった。

ここで我慢を通せるかが変革のキーになってくる。2019シーズンの天皇杯決勝に残り、ACLプレーオフへの参戦もあったので、かつて例のない3週間という短すぎるオフ期間。新加入選手の大量加入。そこに舞い込んだ新監督の抜本的改革。どう考えても最初は苦しむに決まっていた。

しかし、結果として我慢はできなかった。「ポゼッションサッカーと伝統のハイブリッド」などとメディアが銘を打ったこれまで通りのサッカーは、残酷なことに順位を上げてしまった。

ザーゴが何も残さなかったとは言わない。沖悠哉という新守護神を擁立し、荒木遼太郎という新エースを作り上げた。松村優太、染野唯月らなど数シーズン育てることができなかった若手選手を何人も作り上げてくれた。

彼が優れていたのは戦術面ではなく、そのチャレンジ精神だったのかもしれない。しかし残念ながら、”ポゼッションサッカーへの転換”というチャレンジは失敗に終わってしまった。

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