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佐藤天彦九段との対話(一部抜粋版)

[問い]AIと将棋、将棋棋士について

Castle In The Air

Q.
将棋棋士の一手にかける重みといったものについて私を含めて一般の人びとが理解するのは難しい側面があるわけですが、その凄みの一端や片鱗に触れることができれば我々は嬉しく楽しいわけです。専門家と一般人の関係性というのは古くて新しいテーマです。

[返答]佐藤天彦九段

羽生世代の棋士たちは、前時代の旧習を打破していきました。将棋そのものに向き合ってとりわけ羽生さんは実力で突破していったのです。

そして、AIの登場はそれをさらに解体してくれた。哲学の用語として正しいかはさておき、AIは将棋を「脱構築」しました。AIは人間の行き過ぎた先入観からくる手の選択といったようなことを問い直してくれました 。

「人間は普通、こういう手をやるよね」という前提、言い換えれば将棋のセオリーをいわば「空中の楼閣」のようななかで組み立て議論していたところに、「まずその基礎として土台となっているところはどうなの?」という根本的な問い返しとしてAIは指摘してくれたともいえます。ある意味で将棋そのものに対する提言を行ってくれたわけです。

それに対して将棋の技術を持っている者として「AIが言っているから」というバイアスを取り除いて、「確かにAIが言ったこの部分に関しては将棋の真理探究のために修正する必要があるな」とAIを一つの思考として捉え、真摯に向き合っていけるのであれば、それは将棋が前進していくことにつながります。

[問い]将棋棋士~その選良の世界について

Intellectual Giftedness

Q.
わたしのような一般の市井からすると、プロ将棋棋士が「脳内盤」で複雑な変化手順を読み進めていったり、その形勢判断をしたりといった高度な能力は、常人離れしているようにみえます。しかも、そうした才能が幼少期の頃に開花するトップ棋士ばかりです。つまり、天賦の才のように思えます。私は、天彦さんを含めた現代トップ棋士の魅力というのは、そうした天賦の才をもった人たちが競演(饗宴)するというところにあると感じています。

[返答]佐藤天彦九段

もしかするとそうなのかもしれません。
将棋棋士の世界は、幼少から将棋に突出した人たちを互いに戦わせることで、個々の個性を全面に押し出していかないと勝てない、勝ち残れないという、いわば将棋の能力や才覚を濃縮させていく制度やシステムを導入しているともいえるかもしれません。奨励会にせよ、順位戦にせよ、そうしたことがいえるかもしれませんね。

幼いころ、「将棋への愛」のようなものがわたしよりも勝っている人たちは少なからずいました。しかし、そうした「愛」と将棋の対局で勝ち抜いていく力というものは、やむなく必ずしも対応しているわけではありません。
そうした意味で、自分の意志と関係なく才能や運を授かっているということについて考えました。
幼いころ、若いころに将棋に出会わなければ、将棋棋士になれないというのがこの世界です。だから、才能や運を授かっているということについて考えたのです。そしてそれを活かす義務のようなものがあるのではないかという気持ちをもって、これまで将棋に取り組んできたとは思います。



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