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『週刊DiGG』#13 -最新HIPHOP 7曲レビュー紹介('20/11/13〜11/19)-

ぼちぼち年末の気配を感じ、今年を象徴する曲はどれかと選考を始めているドラム師匠です。

今週の『週刊DiGG』は、11/13〜11/19に公開されたHIPHOPのMV 7曲をレビューをつけて紹介しています。

数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、そして時代の空気感を封入しました。曲を奥深く味わいたい方は、“さらに深掘り”も併せてチェックしてください。

▶︎ カッコいい曲+アーティスト情報も知りたい
▶︎ 心に空いた穴は、音楽でしか埋めれない

という方にオススメの記事です。最新HIPHOPを一緒に味わいましょう。


※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。

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|CaTEye (猫眼以太) / DIE YOUNG|

2020/11/13 公開

日本と中国のHIPHOPを発信するプラットフォーム"YELLOWHUB"から公開されたのは、中国語、英語、韓国語、日本語の4ヶ国語を操る中国人ラッパーCaTEye (猫眼以太)

ラップだけでなくシンガーソングライター×トラックメーカー×プロデューサーという多くの立場で活躍し、マルチな才能を発揮する。

この曲は、「DIE YOUNG = 早死にする」というショッキングなタイトルであるが、寂しさを忘れるため蝶のように空に羽ばたく浮遊感、生と死の間にいるようなドリーミーさがある。

Verse2では「短いLife 思い切り笑って 明日はないから 今を生きろ」とラップしており、切なげなメロディと淡い音像の中で、ポジティブさが余計に心に残る。

彼女は、アジア圏を舞台に活動するという意図が感じられて頼もしい。男性ラッパーが“これがHIPHOPだ、いやHIPHOPじゃない”と揉めている頭上を軽々と飛び越えて、広いマーケットで活躍すれば、このシーンはますます面白くなる。今後も目が離せないアーティストである。



さらに深堀り

▼CaTEye (猫眼以太)2019年の作品。おそらく中国語でラップをし、会話は英語、ロケは日本、Dubstepなリミックスという雑多感は、'90sの香港映画のような混沌から生まれる勢いを感じる。


▼CaTEye (猫眼以太)が影響を受けたアーティストを語ったインタビュー

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|SAM / なんとかなる feat.般若(Prod. tyoyt) |

2020/11/14 公開

ラッパー般若に憧れてペンを取った、リリックを書いた。
その日からラッパーになった16才の青年は、10年経った節目の誕生日に、般若を客演に迎えた新曲をリリースした。

彼の名はラッパーSAM 。栃木県宇都宮市を代表して、MCバトルでは数々の業績を残し、2020年には毎月EP、シングルをリリースするなど楽曲制作にも力を入れて活動している。

11月18日には、「般若さんにはなれなかったけど 般若さんと曲ができた」とツイートしており、この曲のタイトル通り、「なんとかなんなくてもなんとかなる」事をこの10年間が証明。

Verse2を蹴るのは、後輩に胸を貸す般若。「大丈夫なんて言葉1番 嘘」と甘えることを許さず叱咤するも、最終的には「なんとかなる」と励ましていて温かい。そんな器の大きさにSAMが憧れるのであろう。

曲「DICE」でもSAMとコンビを組んだビートメーカーtyoyt が奏でる音色が心を晴れやかにしてくれる。

1度きりのlifeだぜ好きに生きな
思ってるよりなんとかなっから
まあ死にはしねぇ満ち足りてる
訳では無ぇ未だに息はしてる




さらに深堀り

▼SAMの生い立ちや、MCバトルの実績など、これまでの歩みが克明に書かれた記事。父親が演歌歌手であることなど意外な事実を知ることができる。

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|KOWREE / I'm Still In a Dream(prod. Cloud NI9E)|

2020/11/16 公開

島根を代表するラッパーKOWREE(コーリー)。

2017年に発表した「H.I.P.H.O.P」という曲にこんな一節がある。

山と谷を乗り越え 残していく年輪
その身を削って 少しずつ前進
ない階段飛ばし 地道に自制し
一つずつ積み上げる 1mm 1cm 

このリリックから分かる通り、誠実な人柄で、良くも悪くもオールドスタイル。2013年に1stアルバムをリリースし、MCバトルではUMB予選4回優勝するなどスキルを磨いてきた。ただ実直に、確実にキャリアを積み上げ、2020年5月に3rdアルバム『Gene And Thought』をリリース。

その中に収録された「I'm Still In a Dream」は、彼が周囲の声を気にせず、夢を追いかける無我夢中さを疾走感と共に描いた作品。

トラックは、同じく島根県出身のCLOUD NI9Eによるもの。太いドラム音なのに小気味いいビート感。ソウルフルな女性ボーカルのサンプリングが、どこまでも伸びやかで、彼の走る背中を押しているかのよう。

決断したいけどなかなか吹っ切れない。そんな人にぜひ聴いてもらいたい1曲。

まだやってる抗がってるとかじゃなく 単に今も胸が高鳴っている
3億秒じゃ消えないREASON 経験の分肥やしたSTEEZ



さらに深掘り

▼「KOWREE / チャンプロード-REVENGE OF UNDERDOG pt.2-feat JAKE (BoNTCH SWiNGA REMIX)」を紹介した記事

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|RAMP / futen feat EASY(prod. OGRE WAVE)|

2020/11/16 公開

SILENT KILLA JOINTS-kaineなどの人気ラッパーとのコラボ作品で注目を集めるビートメーカーOGRE WAVE 

彼が主宰するレベール・PURPLE SMOKE からリリースされたRAMPの1st EP『Muddy Step』からの一曲。

EPの中でも、グリッチノイズを多用したエレクトリックなサウンド。電子音がうずまく音像に、RAMPは不安定さをつづり、サラムライなどの様々なユニットを組む客演ラッパー EASY は、日々流れる時間のループから音の中へと意識を高める。

HOOKのメロディに郷愁を誘われ、「今更やめれまへん」と言う大阪弁に安心感を覚える。ここではない、どこかで見たような懐かしさを覚える。

「遊びの延長 LIKE A  futen 瀬戸際」



さらに深堀り

「futen」のプロデューサーOGRE WAVEのDJ動画。細見の身体からは想像できないほど太くて漆黒のブレイクビーツが鳴らされる。後半、エレクトリックなサウンドもあり、怪しくも美しい世界に引き込まれる。

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|018 / 222 feat.week dudus & Hezron|

2020/11/18 公開

終始鳴り続ける不穏なノイズ。クラップ音、チキチキハイハット、ノイジーなベース。装飾はなく、骨組みが剥き出しになったトラック。

「俺たち3人は超斬新だ」と歌われる通り、前衛かつ、なぜこれがカッコよくなるのか理解できないほどカッコいい曲。

ハスキーな低音ボイスが魅力的なTrap系ラッパー018 (オチバ)。
AbemaTV『ラップスタア誕生』で知名度を全国区に押し上げたweek dudus(ウィーク ドドス) 。
LEXのアルバムにも客演参加し、多彩な声色を使い分けるHEZRON 。

3MCは、ライブでの迫力ある声の出し方ではなく、隣で寝ている人を起こさないぐらいの発声で抑揚をおさえつつも、いかにカッコよく魅せれるかに挑んでいる。

これは禅にも通じる引き算の美学。静寂すら感じつつ身体が動きだす不思議な魅力に引き込まれる。


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|SEEDA / みたび不定職者 FT Jinmenusagi, ID(prod. BACHLOGIC) |

2020/11/18 公開

AbemaTV『ラップスタア誕生』のファイナルステージのエピソード。

ウィルスの影響で、観客のいないスタジオでのパフォーマンスという異例の審査となった。ソファーに腰掛けた審査員は、ペンを片手に真剣な表情で採点していた。そんな中、「(パフォーマンスに)クラっちゃって」と終始ノリノリだったのが、SEEDAだった。

若手の緊張をほぐす気遣いがあり、自分の感情に素直な人だなと感じた。

そんなSEEDAのニューシングル「みたび不定職者」は、タイトルに三度とあるように、実は今回で3度目のリリースとなる。

最初は2006年のアルバム『花と雨』に収録され、2度目は2007年のアルバム『街風』に「また不定職者」として、BESとMC漢を客演に迎えリリースされている。

そして今回は、JinmenusagiIDを客演に迎えててリリース。曲の冒頭で、自身を「ガチのニート」と陽気に笑って話しており、どこまで本気か分からないが、年齢を重ねるごとに自分を守るヨロイが外れ、子供に戻っているような無邪気さがある。

2006年に制作されたとは思えぬほど何年経っても色あせないBACHLOGICのビートは、アフリカの民族音楽をサンプリングしており、プリミティブさが今のSEEDAにピタリとハマっている。

こんなに自由になれるなら、ニートってありかも…と思わせてくれる。

「イケイケになりな どうせなら不定職者 wow」


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|Kvi Baba / Tired But Fine (Remix) feat. vividboooy|

2020/11/19 公開

これは希望の歌である。

11月17日に配信されたKvi Baba(クヴィ・ババ)の4th E.P 『LOVE or PEACE or BOTH』のラストを飾る曲。ビートメーカーBACHLOGICによる、動物の悲痛な鳴き声にも似たキリキリとした音色から始まる。

肉体的にも精神的にもどん底まで追い込まれたKvi Baba。絶望の渦中にいた状況を、「生き方も死に方も知らずのまま 疲れては天を仰いだ」とつづっている。

そして“死”を意識したからこそ感じられる“生きる”意味。“絶望”を味わったからこそ、人への“優しさ”と“癒し”に変えられる。

いま闘って苦しんでいる人へのエール。顔を上げ、目線を先へ先へと向けることでその先の希望を提示し、勇気を与える。

またこのMVは、映像作家・新保拓人によって撮られたもの。iPhone 12 Pro Maxで撮影され、スマートフォンで見ること最適化した縦型仕様。ローアングルで撮られた映像が多く、上部に余白を残すことで自然に目線が上を向くようデザインされている。

「戦っているみんな 孤独の闇の中
 いつになったら浴びれるの光は 雲間からさしこむ」



▼Kvi Babaの前MV「Sabaku No Daichi feat. Fuji Taito」を紹介した記事


さらに深掘り

▼縦型の映像作品を配信するアプリsmash. を開発した前田 裕二は、「never young beach / お別れの歌」を引き合いにだし、スマホ向け動画はまだまだ開拓の余地があると語っている。(58秒〜) HIPHOPでも縦型MVが増えそうな予感。

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さらにHIPHOPを知りたい人へ

『週刊DiGG』では、これからも毎週HIPHOPを紹介していきます。まとめて読みたい、という人のために『月刊DiGG』も始めました。月1回 約30曲分をまとめてチェックできるのでお好みでどうぞ。では来週もお会いしましょう。またね!


▼筆者によるYouTube動画


▼毎月2回作成しているプレイリスト。'20/11/1〜11/15までに公開されたMVの中から厳選した30曲をセレクトしました。今回紹介しきれなかった曲がたくさんあるので聴いてみて下さい。




HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。