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#2-6 大人になれなかった俺へ⑥

 キャンプに戻った俺と隊長はすぐさま国に連絡を取った。隊長の上層部はなかなか取り合ってくれないが、国の調査隊はすんなりと話を聞いてくれた。パレス防衛作戦が終わり次第派遣部隊を向かわせるとのこと。

「それにしても驚いたな。こんな辺境の湖のほとりにあんな洞穴があるなんてな」
「確かにそうですね」

 俺と隊長はすっかり打ち解けていろいろな話ができるようになった。この日の夜は団の仲間と皆で飲んだ。

「……でさ、俺は向こうの兵士をバッタバッタと倒していったってわけよ」
「はい。そうなんですか。凄いですね。」
「ちょい、ちゃんと聞いてるの!?」
「はいはい、聞いてますよ」

 この話題3回目だよ……。とまあ、こんな感じで隊長の過去譚を夜通し聞かされた俺含む団の仲間達は、朝になる頃にはスタミナ切れで熟睡していた。
 そんなこんなで、俺達は新しい隊長を迎えてますます結束力を強めた。


 けれど、依然隊長と上層部の対立は激しく、日に日に隊長のイラつく日が増えた。

「ったく、なんでわかってくれねぇんだよっ!」
「……大丈夫ですか?」
「ああ、すまん。上のやつの頭が硬くってちっともこっちの話を聞いちゃくれねぇ」
「隊長は本当はなんで言いたいんですか?」
「戦争をやめないかって」
「えっ」

 隊長の言い分はこうだ。今の戦争は5年ほど前に起きた飢饉が元で始まった戦争だが、今となっては食料問題は解決して戦争をしている明確な理由がないという。いわゆる、引くに引けなくなったってことだ。だから権力的に強いこちら側が会談をもちかければ話で戦争は終結し、犠牲を出さずに済む。しかし、こちら側は元々隣国同士の連合国で、小競り合いがたびたび起きていて連携が取れていない。なので、講和まで持っていくのが難しいという。

「それなら仕方ないじゃないですか」
「いや、ってもな。うちが今じゃ一番最前線にいるんだから、話し合いに持ち込もうと思えばできるんだよ。なのに『隣国がうるさいから』って一点張りだ。ろくに自分らで考えもしないで戦争してやがる」

 少し胸がちくっとした。

「ちょっとは自分で頭使って行動しやがれ。そうでもしないと本当に戦争に負けちまうぞ」

 
 隊長には強い自分の信念があるようだった。俺も見習ったほうがいいんだろうか。一応、戦線で戦うものとして。よく分からない。

「どうすれば良いか分からない……」
「どうすりゃって、そりゃまずは目に見える出来ることからやるっきゃねぇよ。でもただやるんじゃねぇ。今自分がどんな状況なのか、相手は、味方はどのくらいだ、手持ちは何が残ってる、どういう戦法を使えば相手を倒せる、倒すことで何が得られるか、何を失うか。それらを全部考慮して戦うんだ。それだけ考えて戦う責任・義務がある。人の命が関わってるんだ。そのくらい真剣にやれ」

 どうやら自分の不安が口に出てたようで、長々としたアドバイスを貰った。「まずは目の前」か……。自分にそれだけのことが考えて戦えるだろうか。

「なに、一度に全部は厳しい。それこそ動けなくなっちまうかもしれねぇ。まずは、一つでいいんだ。なにか持って行動しろ。って、戦争反対の何言ってんだか。説教たれすぎたな。すまん」
「……ありがとうございました」
「えっ」

 頑張ってみようと思う。

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