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短篇集「グリムガン」

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とあるセカイの夢物語。 ※この小説は「pixiv小説」「小説家になろう」にも投稿しています。
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記事一覧

#3-2 夜の街と君の朝/中①

#3-2 夜の街と君の朝/中①

 今日も街は雨だった。

 窓枠についた水滴で星を描く。指にしっとりと水気が付く。まだ夏は遠いからじめっとはしていない。
 私は今日も彼の家に行くつもりだ。前夜が傾いた頃に向かうと約束してある。彼は今日も笑顔で私を迎えてくれるだろうか。彼は私の星。私に降り注ぐ雨。けれど、この街の雨よりずっと明るくて私はいくらでも浴びたくなる。
 あと1時間と少し。荷物のチェック。着替えと下着と今日は星を見るって言

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#3-1 夜の街と君の朝/上

雨。ゆるりと雨。

少女はこの街の亡霊だった。

 この街は少女の生まれ育った街。そして土地柄、雨の多い街だ。この街は窪地にあるらしく、梅雨になると毎日のように雨をもたらした。

 そしてこの街にはもう一つ。朝が来ない。ずっと夜。誰かが操作しているかのように朝コマンドが出てこない。暗い。そこに住まう人々も永夜に影響されてか物静かな人が多い。

皆静かに朝を待っていた。

 そんな街で少女は恋をする

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#2-6 大人になれなかった俺へ⑥

#2-6 大人になれなかった俺へ⑥

 キャンプに戻った俺と隊長はすぐさま国に連絡を取った。隊長の上層部はなかなか取り合ってくれないが、国の調査隊はすんなりと話を聞いてくれた。パレス防衛作戦が終わり次第派遣部隊を向かわせるとのこと。

「それにしても驚いたな。こんな辺境の湖のほとりにあんな洞穴があるなんてな」
「確かにそうですね」

 俺と隊長はすっかり打ち解けていろいろな話ができるようになった。この日の夜は団の仲間と皆で飲んだ。

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#2-5 大人になれなかった俺へ⑤

 洞穴はさらに奥へ続いており、進むとサファイアの数は減っていき、最深部は先も見えない闇が広がった。それはどこまでも続くようで、自分がとても小さな存在に思えた。戦争に駆り出される以前の自分、いや今の自分だって闇の中を歩いているようなものだ。
 後ろを振り返る。サファイアの一筋が微かに差している。後ろを向けば道がある。示してくれる。それは学校の先生だったり、それは親だったり、はたまた戦争だったり。
 

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#2-4 大人になれなかった俺へ④

#2-4 大人になれなかった俺へ④

 五分後、湖畔横の生い茂る林の中に洞穴は突然現れた。入り口はとても小さく、人がやっと一人入れるくらいだった。

「にしても、こんなところよく見つけましたね。しかも監視中に……」

「いやぁ、監視が暇すぎてそこら辺歩き回ってたら偶然見つけてさ。だってこんなところに穴があるなんて思わないだろ?」

 なんていうか、隊長って……。

「ええ、じゃあ僕にこの場所を教えたのって、今後の作戦で使えそうとかそう

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#2-3 大人になれなかった俺へ③

 目を覚ますと、そこは看護テントのベッドだった。どうやら熱中症で倒れたらしい、と当時の俺は思った。
 横で濡れたハンカチを絞っているナースと目が合う。大きい。D…いや、Eはありそうだ。思わず見惚れる。
 「小さくて何が悪い!ぶっ飛ばすぞ!」と何処からか空耳が聞こえた気がしたので、即座にナースから目を離す。と同時に、ヤマザキ隊長がテントに入ってくる。

「おお、起きたか。体調はどうだ。この数字、わか

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#2-2 大人になれなかった俺へ②

#2-2 大人になれなかった俺へ②

 時は遡り、約一年前。上暦104年8月某日、例年に比べ気温の上がった夏の日だった。セミは抜け殻だけを残し、何処かへ行ってしまった。太陽は俺を真上から照らし、湖畔沿いのキャンプ前で立ち尽くし警備する俺をギラギラと焼いた。肌は黒くなり、服の中の白肌とコントラストを作ってるだろうと想像していた。

「なんでこんなことやってんだ、オレ……」

 侵攻軍の襲撃に備え奴らの方角を向いて監視しているのだが、これ

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#2-1  大人になれなかった俺へ①

#2-1  大人になれなかった俺へ①

「こんな人生で幸せだったのか」

 ーーー上暦105年5月、ここウエストパレスの地では激しい惨禍が繰り広げられていた。静かな湖畔に突然響き渡る銃声。空からはミサイルの雨が降り注ぐ。飛び交う血肉、怒号、叫び声。ここはもう、かつてのリゾート地の面影などとうに失せて、立派な戦場へと成り下がってしまった。
 俺はそんな俗に言う「パレス防衛作戦」の真っ只中、防衛軍へと駆り出されたいち学生だ。
 今、戦況は本

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#1  先輩へ-ラストメリー-

#1  先輩へ-ラストメリー-

[一]
 私-花崎一華-の初恋はとても意外なきっかけで幕を開けた。
 私は元来音楽に興味があって、当時中学生だった私は手元から手軽に聴ける、動画配信サイトの歌ってみたや弾いてみたなんかを好んで聴いていた。素人ながらでも精一杯練習して動画を投稿する。生まれてこの方、能動的な活動をしてこなかった私にとっては、その姿は私には届かない尊敬の念を抱かせた。
 明くる日のこと、いつも通りスマホのアプリを開いて

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#0  プロローグ-手記-

#0  プロローグ-手記-

 平凡な人生だった。
 皆と同じように遊び、学校へ行って学び、バイトをして貯めた金で人里離れたこの家でのんびりと休暇をとっている。刺激が欲しくなかったのかといえばそういう訳でもない。学校の歴史で学んだ、誰某が○○を作った、--を倒した壊した、産み出した……このセカイを生きたあらゆる人物が今のセカイを作るために破壊と再生を繰り返してきた。そして今こうして私達の手元に教科書として活字でその名が刻まれる

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