頑なさは弱い

研修医として外科を回っていた時、
膵臓癌の60代男性の患者さんがいました。
転移もしており、痛みを伴う末期的な状態でした。

ご家族が面会にみえる事は少なく、
外出もされず、
大部屋の湿気のこもるカーテンの中、
痛みに耐えていらっしゃいました。

いつも機嫌が悪く、
病棟の患者さんに当たり散らすので、
ナースコールが鳴ると、
スタッフの顔が強ばる程になっていました。

ある休日、
何度目かの手術後の処置を頼まれ、
伺いました。

モチロン面識はありましたし、
上級医師の指導も受けていた為、
つつがなく処置は終了しました。

ホッとしつつ、その場を離れようとすると、
その患者さんが、
“女医さん”
と話しかけてきました。
心が強ばるのを感じつつ、
“なんでしょうか?”
と静かに応えます。

“しなやかに、竹の様にしなりなさい。
頑なさは、弱い”

と、呟かれました。

私の目をキチンと捉えて、静かに渡されたその言葉が、大きく響きました。

その時は、大きく響いたものの、
変われる余裕はありませんでした。

その数ヶ月後、
その患者さんは、お亡くなりになりました。

それから、14年が過ぎ、
私は、あの言葉を何度も呟いている。

頭で分かっていても、
本当に心がそちらに向かえるには時間がかかるものだな、
と思う。

そして、
心がそちらに向かってから、
本当に自分のものになるにも時間がかかる。

“医師の心には墓場がある”という。
あの時、、、
と、ミスでも、事故でも無くても、
亡くなった患者さんは、
ずっと心に居続ける。

そして、お一人お一人が、
沢山の事を教えてくださる。

#医師 #人の想い #エッセイ #生き方 #死 #言葉


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