Vulfpeckの正しい読み方・名前の由来と、その特殊なバンドサウンドの成り立ち――なぜ「Dean Town」にはソロがないのか?
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、2回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
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LAのミニマルファンクバンド、「Vulfpeck(ヴォルフペック)」。今回は、そのバンド名の読み方、名前の由来から、彼らの特徴的な「ミニマルファンク」のサウンドがなぜ誕生したのか、なぜ「Dean Town」にはソロが存在しないのか…というのをまとめた。
名前の由来・正しい読み方
まず、名前の由来から紹介したい。これは英語の「Wolf Pack」をドイツ語で発音したときに「Vulfpeck」になるからだ。
「Wolf Pack」は「狼の群れ」という意味。ドイツ語発音を使っていることについては、下記のインタビューなど複数の発言で確認済である。
そして、このドイツ語というキーワードをふまえて、Vulfpeckの正しい読み方について。
これは、「ヴォルフペック」である。理由は2つ。
①現在、「ヴルフペック」と読ませる和訳が主流だが、実はドイツ語翻訳で「狼」を発音させてみると、「ヴォルフ」と発音しているのがわかる。ライブやインタビューなどでも、メンバーは「ヴォルフペック」と呼んでいる。
👇【発音確認】再生してすぐに、メンバーが「We are Vulfpeck!」と喋るので発音が確認できる。明らかに「ヴルフ」ではなく、「ヴォルフ」となっているのが分かるだろう。
②リーダーのジャックのソロアルバム、Vulfmonの「Vulfnik」の日本盤アルバムジャケットに、「ヴォルフモン」「ヴォルフニク」と書かれているため。
これにより、 Vulf = ヴォルフ だという公式の見解から、Vulfpeckの日本語表記が「ヴォルフペック」であると考えられるのである。(※2023年4月26日追記)
バンドコンセプト「ミュンヘンのモータウン」
さて、ではなぜドイツ語だったのか?それは、こちらのインタビューで語られている。
「ミュンヘンのモータウン」?
ドイツ語を使ったのは、ドイツ人であるReinhold Mackに対する「Jackの憧れ」によるものだということは分かったが…いきなり謎の単語が出てきたので、ここでのJackの発言の意図について考えていきたい。これが、Vulfpeckの初期のサウンドを理解するのに大きなポイントになる。
JackがVulfpeckで実現したかったものは、「Funk Brothers」「The Wrecking Crew」「Booker T&The MG's」「The Swanpers」というバンド形態だった。つまり、「チャートNo.1のソウル&ファンクをレコーディングする際のバックバンド」である。
これらのバンドをコンセプトにしていることは、「Welcome to Vulf Records」の動画内の字幕にも書かれている。
「Funk Brothers」「The Wrecking Crew」「Booker T&The MG's」「The Swanpers」とは…1960年代~1970年代に、レコード会社に雇われてバックバンドとして数多くの名演を残したバンドである。
バックバンドなので彼らの中に、ボーカルはメンバーとして在籍していない。彼らの演奏は多くのNo.1ヒットを生み出しており、それはブラックミュージックだけでなく、ポップス界にも広がっている。
残念ながら当時、バックバンドはアーティストとして認められておらず、レコードにも名前が載ることはなかった。そのあたりは映画「永遠のモータウン」「レッキング・クルー ~伝説のミュージシャンたち~」が詳しい。
そして、「Funk Brothers」というのが、「モータウンレコード」が数多くの作品をレコーディングするときに演奏していたバンドである。
つまり、「ミュンヘンのモータウンになる」というのは、「ドイツのFunk Brothersになる」ということなのだ。
ここでJackは「モータウン」と言っているが、本当に意図していたところはボーカルがいない「Funk Brothers」であるところが重要である。
それはいったい、どんなサウンドか
では、ドイツのFunk Brothersなら、どんな演奏をするべきのだろうか?
ドイツのモータウン・カラオケ・アルバムというものは存在せず、これはジャックの冗談なのだが、彼の意図するところは、Funk Brothersがレコーディングしてきた部分だけを再現するということだった。
当時はFunk Brothersがレコーディングした後から、シンガーたちがやってきて数多くの名曲を完成させていた。しかし、Jackはそのシンガーが入る前の状態でレコーディングを終えてしまうような曲…グルーヴだけが強く強調され、主役が存在しないかのような曲を書き、バンドで演奏した。
まるで「ボーカルがいるかのように」。
すると、こういうサウンドが生まれるのである。
いかがだろうか?これが、初期のVulfpeckのサウンドの正体だ。
例えばいまの「A Walk to Remember」など、いかにもモータウン!というイントロで始まるが、「そろそろ歌が入ってくるかな~」と思っていても、最後まで歌が入らない。歌が入りそうな場面は、ピアノのリフやオブリ(本来、歌の後ろで演奏されているやり方)で埋められている。
これに後から歌を乗せても自然に聴こえるのではないか…と思えるほど、彼らのこの楽曲は「主役不在」だ。まさにバックバンドの演奏。そこにあるのは素晴らしいグルーヴ、洗練されたバックバンドとしてのセンス。本当に「まるでボーカルが存在するかのように」演奏されている。ここから感じるのは、Jackの圧倒的なまでの「バックバンドへの憧れ」だ。
レコーディングをしていけば、いくらでもサウンドを「足す」ことはできる。だが、Jackの求める音はそうではなく、「引く」ことで生まれていた。彼はバックバンドに求められるセンス、つまり引き算のセンスによってVulfpeckのファンクを作って行ったのだ。
私も最初に聴いたときは主役不在のこのサウンドに戸惑ったが…今ではすっかり虜になっている。そして、実際にこの初期のサウンドの段階から確実に彼らはファンを獲得していた。
また、別の記事でも、このサウンドについて言及している。
この路線はさまざまな楽曲で確かめることができる。上記のインタビューを読んでから彼らの楽曲を聴けば、以前とは違った形で聴こえてくるのではないだろうか。
後から歌が入る曲のインスト版を録音してみたり、なぜそんなことを?と思っていたが、きちんとした理由があったのだ。むしろ、そのインスト版こそが、バンドコンセプトの内側にある楽曲だった。
Dean Townにソロがない理由
以上が、「ミニマルファンク」と呼ばれる彼らの初期の楽曲や、現在のインスト楽曲に通底するコンセプトだ。もちろんそのコンセプトは初期のものであるが、リーダーであるJackはそのサウンドを常に意識しており、わりと最近の曲からもその引き算のセンスを感じることができる。
つまり、この曲からだ。
タイトルでも言及した「Dean Town」である。この曲はF#m、C#m、E7、Bを繰り返す単純な16小節のループになっており、テーマをJoe Dartが弾いたあと、Cory Wongも一緒になってテーマを弾く。テーマは2コーラス。この後、ソロへ行くか…いや、行かない!
何故か?ここにも「引き算のセンス」が発揮されているからである。
ここまでのVulfpeckのサウンドの影響元、コンセプト、彼らが行ってきた録音を考えれば、この「Dean Town」でいきなり他のバンドのように、バリバリのソロを弾き倒す…ということは考えられない。この「ソロへ行かない」アレンジは、結成から数年間、引き算ファンクを演奏し続けてきたVulfpeckからしてみたら、しごく当然のことだっただろう。
この「ソロではないパート」で演奏を進めているやりかた、グルーヴだけを提供しているパートは、先ほど紹介した「A Walk to Remember」の「歌が入ってもおかしくないパート」の演奏と、とてもよく似ている。Jackがインタビューで語った「(Vulfpeckは)後からボーカルを乗せるリズムセクションとしてレコーディングしている”フリをしている”」というのは、Dean Townの「ソロではないパート」でも同じことを行っているのだ。
さらに、この曲の構造が16小節の繰り返しだけになっているのは、Jackが「If You Want Me To Stay」に影響を受けているという点とも合致する。8小節の単純な繰り返しだけで歴史に名を残す名曲となっている「If You Want Me To Stay」。これらのミニマルな思考が融合して、「Dean Town」のなかに落とし込まれているのである。
「Dean Town」に限らず、ソロパートを入れないという思考回路は、Jackも実際に自分で語っている。
ドラマーとしてキャリアをスタートさせたJackは、本当にグルーヴの虜であり、グルーヴがあればおかずはいらない…そんな人間なのだ。そして、そんな彼が作ったVulfpeckだから、ミニマルファンクは「グルーヴ重視、引き算&短時間ファンク」なのである。
最後になるが、さらに同じ記事で、JackはThe Crusadersの「Put It Where You Want It」が大好きだ、とも語っている。ここまで長々と書いてきたが、実はこの曲のクールな雰囲気、ソロ短め、モータウンのようなグルーヴが、既存の曲で初期のVulfpeckを表現するのに一番わかりやすいかも?とも思う。
少なくとも、いきなり「ミュンヘンのモータウン」と言うよりは分かりやすいはずだ。
Dr.ファンクシッテルーのnoteでは、他にもVulfpeckに関する詳細なまとめを連載している。良かったらご覧いただきたい。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
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