(トップ画像出典:Ginger Root — Interview)
KINZTOのDr.ファンクシッテルーです。今回は、いま日本で話題になっている新しいアーティスト、Ginger Root(ジンジャー・ルート)について、どこよりも詳しい紹介をしていきたいと思います。
(この記事は前半です。後半を読みたい方はこちらから👇)
Ginger Rootはカリフォルニア州出身のシンガーソングライターですが、👆の動画を観てもらえば分かる通り、まるで80年代のシティポップのような曲を、山下達郎のような風貌で歌いあげています。
私は密かに「カリフォルニアのヤマタツ」と呼ばせていただいていますが、このちょっと不思議なアーティスト性が、いま、日本の音楽ファンにかなり話題となってきているのです。
彼は2023年1月に初来日となるツアーを開催しますが、東京のチケットは即完売。急遽、追加公演が決まったのですが、そのチケットも秒で完売しました。これには本人も喜びの言葉を語っています。
今回は、来日前にGinger Rootのことを詳しくみなさんに知ってもらうために、彼のインタビュー記事などを引用しながら、彼のルーツ、音楽性、アルバム解説などを行っていきます。
また、Ginger Rootは同じ世代のバンド、Vulfpeckに非常に大きな影響を受けているアーティストです。今回のGinger Root特集は全3回となっていますので、ラストの3回目ではその影響についてマニアックに解説させていただきます。👇
それでは、始めましょう。
Ginger Rootとは?
まず、Ginger Rootとは何か?
バンド?ソロ?というところから。
Ginger Rootは、Cameron Lew(キャメロン・ルー)のソロプロジェクトです。彼はさまざまな楽器を演奏することができ、自らスタジオを所有してミックスやマスタリングも行っているため、レコーディングも自分ひとりで完結できてしまいます。
Ginger Rootという名前は実はVulfpeckのライブ動画から取られたものなのですが、それについては今後の記事で詳しく解説していきます。
ライブでは主にキーボードを弾きながら歌っており、高校時代の友人のMatthew Carney(ドラム)と、Dylan Hovis(ベース)がサポートとして入っています。この2人はGinger Rootの初期から常にサポートを続けており、レコーディングにも参加し続けています。
Ginger RootはAcrophase Recordsから自分の曲をリリースしていますが、自ら作詞・作曲を手掛けるだけでなく、セルフ・プロデュースで、さらにMVも自分で作っています。
実はGinger Rootは大学時代に映画製作を学んでおり、また現在もフリーの映像編集者として仕事を請け負っているのです。この映像制作に関する要素が、Ginger Rootの活動を知る上で欠かせないファクターになっています。
例えば2021年の6曲入りのアルバム、『City Slicker』では、架空の映画のサウンドトラックというアルバム・コンセプトを表現したMVを、全曲で制作。映像と音楽を融合させたアルバムを作り出しました。
しかし全6曲とはいえ、アルバムすべての曲を自分で書き、自分で演奏し、セルフ・プロデュースして、レコーディングからミックス・マスタリングも自分で行うだけでなく、
すべてにプロ級のMVを制作し、主演・監督・編集まで自分で行ってしまうアーティストが、過去に果たして存在したでしょうか?
こういった映像と音楽が融合した作品群を、彼は自ら「ジンジャールート・シネマティック・ユニバース (Ginger Root Cinematic Universe、略してGRCU)」と呼んでいます。
しかも、これらの映像はかなり笑える内容になっています。80年代のシティポップをオマージュしながら、独自のユーモアをたくさん入れてきているのです。
MVだけでなく、アルバムやツアーの宣伝も面白いショートフィルムに仕上がっているので、毎回アップされる動画が非常に楽しみになります。
芸術一家の生まれだそうで、他にもグラフィック・デザインなども手掛けている、マルチアーティストです。大学では副専攻がグラフィック・デザインだったとのこと。Ginger Rootが作ってきた作品のまとめは、彼の本名、Camelon Lewのサイトで確認できます。
アグレッシブ・エレベーター・ソウル
Ginger Rootの音楽を包括的に語るなら、アメリカの60~70年代ソウル・ファンク、日本の80年代シティポップのサウンドに、チルウェイヴやベッドルーム・ポップなどの現代的でリラックスした感覚が融合した音楽だと思います。
簡単に言うと、グルーヴィーでポップ、でもなんだかちょっとリラックスできる、おしゃれなサウンドという感じです。
Ginger Rootの影響元は非常に多岐にわたります。Wikipediaでは「ヴルフペック、トロ・イ・モア、ホワイト・デニム、ファイストなどのグループからインスピレーションを受けているとしている」と書かれていますが、これはGinger Rootが活動開始した直後、2017年のインタビュー記事によるもの。
さらに新しい情報として、2021年1月に公開されたインタビュー記事ではこのように語っています。
現在はさらにそこに、80年代シティポップからの影響が大きく加わっていると言えるでしょう。そういったさまざまなアーティストから受けた影響のもと生み出される音楽を、彼は自ら「アグレッシブ・エレベーター・ソウル」と定義しています。
この定義づけは彼のマーケティング戦略でもあり、また、自身のジャンルが既存の言葉ではうまく表現できないと感じたことも理由のようです。
前述の「ジンジャールート・シネマティック・ユニバース 」も同じですが、彼は多岐にわたる作品群を包括するために"命名"というテクニックを使っている、とも言えるかもしれません。
また彼は日本のポップカルチャーの大ファンで、最近では日本語を勉強し、カナダのライブなのに日本語のMCをしたり、自分の曲を日本語で歌い直したり、「残酷な天使のテーゼ」「君に、胸キュン。」「TANK」などのカヴァーも演奏しています。
Ginger Rootはアルバムごとに少しずつテイストが変わってきていますので、それについては後述しますが、全体的にはグルーヴィーでポップ、でもなんだかちょっとリラックスできる、おしゃれなサウンドだというのは一貫していると言えるでしょう。
さらにそこに、ほぼ必ずユーモアが含まれているのも彼らしいセンス。👇この「Kimiko!」は抱腹絶倒なので非常にオススメです。
デビューまでの経歴
では、彼のデビューまでの経歴と、そこから現在までをアルバムを解説しながら辿っていきたいと思います。
Ginger RootことCameron Lew(キャメロン・ルー)は、1996年ごろに生まれ、現在27歳になったばかりです。誕生日は11月27日。(参照:Ginger Root Twitter)
10歳でギターを始め、高校で他の楽器の演奏だけでなく、レコーディングやミキシングなども習得。大学でもバンドを組み、レコーディングも行っていました。
2012年(高校時代)には、YouTubeで画面分割のレコーディング作品をアップ。これはJacob Collierが同様のスタイルで有名になるよりも前の話で、実は彼は最初から、こういった映像と音楽のミックスをやっていました。このスタイルは、後述する2017年のアルバムに引き継がれていきます。
2013年(高校時代)、Cameron Lew名義で初となるアルバム「Things」をリリース。小曲のコンピ盤となっておりますが、既にかなりの才能を感じさせます。
2015年(大学時代)には「welp.」をリリース。こちらは演奏からレコーディング、プロデュースまで自分ひとりで完結させています。
「Welp.」はリリースに際してライブがあり、動画が残されています。
ちなみに、2015年には日本旅行もしており、彼はそれを映像作品としてまとめています。かなりおしゃれな作品で、音楽も一聴の価値があります。
そして2016年には、Van Stockという友人のバンドで活動。ここでも彼がMVを作成しています。
そしてこのバンドの作曲をしていたとき、Ginger Rootが誕生するのです。
Spotlight People (2017)
Ginger Rootとしての名称が考え出されたのは、彼が大学時代の2016年。Van Stockではなくソロで曲を発表する名義を探していたときのことでした。
そして、2017年に正式にアルバム「Spotlight People」でデビュー。これはまだレコード会社に所属しない、インディーズ作品です。
レコーディングにはGinger Rootだけでなく、現在も彼をサポートしているMatthew Carney(ドラム)、Dylan Hovis(ベース)や、彼の友人たちが参加しています。
MVも、もちろんGinger Rootの編集によるもの。これはVulfpeckの影響を非常に強く感じさせるMVで、前述の日本旅行で撮影された映像も使われています。このMVが、Ginger Root名義では初の映像作品となりました。
「In My Dreams」のようにロックも収められていますが、全体的にはかなりチルウェイヴやベッドルーム・ポップを感じさせる、リラックスしたアルバムです。
Toaster_Music (2017)
Ginger Rootは初アルバムをリリースした後、今度はYouTubeを毎週更新して、それをアルバム化します。
それがカヴァー中心の連作、「Toaster_Music」シリーズです。
(👆ジャケットの日本語表記で伸ばし棒の向きをあえて間違えているのは、流行だったヴェイパーウェイヴやフューチャーファンクの影響を感じさせます)
2017年のGinger Rootは大学4年生でしたが、授業と授業の間に3~4時間の空きがあったため、彼はそこで動画撮影をすることにしました。
基本的に一人で演奏・撮影・編集を完結。選曲も60~70年代のソウルから、Vulfpeckのカヴァーまで多岐にわたっており、彼のルーツがかなり垣間見える内容となっています。
また編集は画面分割スタイルとなっており、これも過去の動画作品を彷彿とさせます。非常にかっこよく、おしゃれで、しかもちょっとユーモアのある、まさにGinger Rootのスタイルだと言えるでしょう。
「Toaster Music」は好評だったため、第2弾と第3弾が作られました。第3弾に関しては、大学を卒業していたにも関わらず、そのまま車の中で撮影とレコーディングを行っています。
第2弾と第3弾はサブスクで公開されておらず、BandcampかYouTubeで聴くことができます。ですがどれも素晴らしい演奏と編集なので、彼のルーツを知りたい方は是非観ていただきたいです。
こういった生活を経て、映像専攻だった彼は、卒業後は映像ではなく音楽をメインの活動にしていくことに決めます。
自らの肩書を何にするか?ということは重要な問題ですが、映像編集をメインとして、アマチュアで音楽を続ける、という道もあったはずです。ですが彼は、ミュージシャンとしての肩書を大きく掲げ、音楽の道を歩んでいくという、大きな決断をしました。
そして、いよいよここからGinger Rootはレコード会社と契約し、本格的なアーティスト活動をスタートさせていくのです……。
この続きは次回の記事で!👇
―――――著者情報――――――
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク博士。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動しています。
「KINZTO」の活動と並行して、音楽ライターとしても活動しています。
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