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マジックマッシュルームによる神秘体験 6 分析

とまあ、当時の経験を主観的に書き連ねてみたが、いささか文学的で科学的とは言い難い。腐っても医学者ということで、ちょっと現在に戻ってきて、あの時の神秘体験を客観的に見てみたい。

まず、マジックマッシュルーム(以下MM)であるが、これはシロシビンやシロシンといった幻覚成分を含むきのこの俗名である。ヒカゲタケ属とシビレタケ属が多いが、今回採取したものはシビレタケ属に属するシロシベ・クベンシス 和名ミナミシビレタケと推測される。日本では1990年代後半にMMがレクリエーション目的で広く流通し、芸能人がこれを食してパニックとなり救急入院するという事件があった。これをきっかけに2002年より規制薬物となっている。なので今やると捕まるのでやってはいけない。のだ。

幻覚きのこでは知覚の変化が起こるとされ、特に視覚の歪みや色彩の鮮明化が特徴的である。まさにそれを経験している。海が粘度を増しているように見えるという症状は視覚の歪みと言えるだろう。

また、星から光が出るという幻覚を認めている。そのほか、地面のサンゴに当たった光が宇宙の星の様に見えたり、海がアメーバのような生き物に見えるといった経験をしているが、これは幻覚というよりは物を別の物の様に感じてしまう「錯覚」だろう。パレイドリアの様なものなのかもしれない。

強い喜びといった心地よい感情の変化を認めている。シロシビンでは感情の変化が起こるとされるが環境や心理状態左右され、心地よい感情の場合もあれば、不安や恐怖など不快な感情を起こすこともある。いわゆる「パッドトリップ」と呼ばれ、注意が必要である。

今回の体験談で特に強調されているのは大いなる者との一体感などスピリチュアルな神秘体験である。これはしばしばサイケデリクスで経験されることである。

The Mystical Experience Questionnaire 30:MEQ30
という神秘体験を計るスコアがある。
(勝手に和訳しました。怒られたら消します。)

0-5の5段階で点数をつける。実際にスコアをつけてみたい。

Factor 1: 神秘さ
1. 自分自身の限界から自由になり自分より偉大なものと一つになると感じる
 →まさに!5点!
2. 純粋な存在や気づきの経験(感覚的な体験の世界を超えて)
 →5点
3. 「内なる世界」の範囲での一体感の経験
 →5点
4. 自分が大きな全体と融合する経験
 →5点
5. 究極的実在との合一の経験
 →5点
6. 永遠や無限を経験しているという感覚
 →5点
7. 自分の周囲の物や人との一体感や合一の経験
 →これはあまりないかな。1点
8. 全ては一つであるという洞察の経験
 →まさに!5点。
9. 全てのものの中にある生命や生きた存在の気づき
 →全てのものに生命が宿っていた。5点
10. 直観的なレベルで経験された本質を見抜く知識の獲得
 →分かった感じがしたな。4点
11.究極的実在のと出会いの確信(その経験中に本当に存在する物として知ったり見たり出来るという意味で)
 →リアルな神や精霊には会ってない。0点
12. 今経験を振り返って、究極的実在と出会ったと確信出来る。(本当に存在する物として知ったり見たり出来るという意味で)
 →0点
13.スピリチュアルな高みにいるという感覚
 →そんな感じ!5点
14. 深い尊敬の感覚
 →そりゃそうだろ。5点
15. 何か深く神聖な物を経験したという感じ
 →そんなの初めて。5点

Factor 2: 良い感情
1. 驚きの経験
 →5点
2. 優しさや親切さ
 →んー、3点
3. 平和や静寂
 →3点かな
4. 恍惚(エクスタシー)
 →エクスタシー!というギャグは好きだった。4点
5. 畏れや畏敬の念
 →宇宙の無限の広さを実感して、ちょっと怖かった。5点
6. 喜び
 →これがメインだったな。5点

Factor 3: 時間や空間の超越
1. 通常の時間感覚の喪失
 →時間感覚?ないない!5点
2. 通常の空間感覚の喪失
 →5点だな
3. 自分がどこにいるのかについての通常の感覚の喪失
 →見当識はあったよ。3点
4. 過去や未来を超えて時間の外にいるという感覚
 →それはあまりないかな、2点
5. 境界線のない空間にいる
 →5点
6. 時間が存在しないという経験
 →時間はあったな。2点

Factor 4: 言葉に出来ないこと
1. 経験が言葉では十分に言い表せないという感覚
 →ラーラーラー ララーラー 言葉に出来なーい♫ 5点
2. 言葉による表現ではあなたの経験に十分な評価を下せなかったという感覚
 →そうだね。4点
3. 経験したことがない人にあなた自身の経験を伝えるのが難しいという感覚
 →頑張るけど全ては無理かな。4点

というわけで、150点中120点で 0.8であった。
過去のシロシビンのMEQ30平均値の報告は0.78であるので、平均と近い経験であったことが分かる。神秘体験の中でも、自我の消失と大いなるものとの合一は特異な体験であり最も重要と考える。

この体験は霊的なものと言えるが、科学的に見れば脳神経ネットワークにシロシビンが作用した結果起こったことである。シロシビンは体内でシロシンに変わりセロトニン受容体の中の5-HT2A受容体に作用する。5-HT2A受容体は中枢神経の新皮質(特に前頭前皮質、頭頂葉、体制感覚皮質)や嗅結節に多いとされる。ただしそれがどのように神秘体験と結びつくのかはまだ明らかではない。

物質的な存在であるMMが心を大きく変化させることは、物質と精神、物質と霊性が結びついていることを示す。しかし、現代科学の理解からは、脳神経系の生理学的な働きと主観的に体験される心象の間にはまだ大きなギャップがある。なぜ脳神経細胞の活動から意識が生じるのか、というのは未だ解決されていない謎、ハードプロブレムなのである。
私はおそらく統合情報理論にその解決の糸口があるように思う。これでは脳神経ネットワーク全体が統合されかつ情報が最大限になった時に意識が生じるとする。つまり、脳神経一つ一つの振る舞いがネットワークで最大限に繋がり一つとなった時に、意識という高次の振る舞いが創出されるのだ。(個々が全体と一つとなる、というキーワードがここでも出てくる)
そして、サイケデリクスは脳神経のネットワークを変化させ、普段とは違う脳の領域同士をを繋げるのだろう。

などなど、色々考えると興味は尽きない。今後のさらなる研究に注目したい。

【参考文献・図書など】
Hallucinogens and Serotonin 5-HT2A Receptor-Mediated Signaling Pathways. Juan F. López-Giménez and Javier González-Maeso. Curr Top Behav Neurosci.
死と神秘と夢のボーダーランド: 死ぬとき、脳はなにを感じるか  ケヴィン・ネルソン  (神秘体験や臨死体験について科学的に考察した本)
意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論  ジュリオ・トノーニ (脳神経ネットワークから意識が生まれる条件について考察した本)

注)このシリーズの4,5はnoteによる規制のため公開不可となっています。
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