ドクターサイクル season2

以前、こんなことがありました。


簡単に言うと、

「チャリぶっ壊れて近所の自転車屋に修理お願いしたら、問診だけで直してもらった。と思いきや次の日普通にタイヤの全空気が抜けてた」


って話。

あれから二か月。
セミさえ鳴けないほどの酷暑が今年もやってきた。

泳ぎてえ


いち早く
魅せるドルフィンキックをしたい
中野のイアンソープこと古沢だったが、
一番近いプールでも2km。
歩くには遠く、電車では近すぎる。

しょうがない、自転車を直してもらおう。

近隣の自転車屋の口コミは軒並み
「愛想最悪」
「ぼったくられた」
など、罵詈雑言の嵐。

この地域で唯一、
光り輝くグーグル星4.5評価の「彼」がいる自転車屋に、
再び足を運ぶことにした。

空気が抜けきった愛車を手押しで進むこと15分。
頬を伝う汗がマスクに沁みても不快感はない。

頭の中には、たった一つのシンプルな不安。

「これ空気抜けてるだけだね」


また言われたらどうしよう。
また問診のみで見てすらもらえなかったらどうしよう。

こう言われたらこう返す。
そんなイメージトレーニングをしているうちに到着。

前に来たときは縁側でピクリとも動かず
こちらの肝を冷やしてくれたドクターサイクルだったが、
今回は既に接客していた。

それも幸運なことに、
古沢の到着は、その接客の終わり際だった。

これは完璧なタイミングだ。
接客後の流れで、店主も既にギアがかかっているはずだ。
自転車だけに

「後輪のタイヤの空気がすぐ抜けちゃって、、」
簡潔に要件を伝えると、

「空気が抜けてるだけだね」


来た。
そう言うと、彼はくるりと縁側の方に歩き出す。
背中からは「俺は寝るぞ」のオーラ。

前回よろしく、
ここでもただ空気を入れて帰るだけでは、
(この自転車に)明日はない。


「あの!!前回空気を入れた翌日には、もう全部抜けてたんです!!」


ゆっくりとこちらを振り返ると、
無言で眉間にしわを寄せて、
視線を古沢の自転車に向ける。

世界初の症例の患者を見たときの表情だった。

詳しい状況を伝えると、
彼は数秒の沈黙のあと

「タイヤ、見てみようか」


やったぞ。
やっとドクターサイクルのオペまで漕ぎつけることが出来た。

彼はそう言うと、古沢の自転車を普通に何度か倒しながらも
タイヤを手慣れた手つきで分解し、
傍らに水を張ったたらいを持ち出した。

「水通し」というやつらしい。
空気を入れたタイヤを水の中にいれて、
パンクしていれば云々、というものである。

不思議な気持ちだった。
失礼ながら、立っているのもやっとに見える
目の前のドクターサイクルだったが、
何らの滞りもなく作業をしている。

きっとこういう人こそがプロというんだろうな。
彼の後ろ姿と、時折見える手元を眺めていると、
不思議と暑さも感じなかった。








作業が終わったようだ。

分解したタイヤを元通りに直して、
額の汗をタオルで拭ってこちらを振り返って



「空気抜けてただけだね」



空気抜けてただけだったのかよ。

いやこんだけしっかり診てもらっても
普通に空気抜けてただけなのかよ。



しょうがない。
逆にいえば、故障ではないことが正式に確認できた。

前回は自分で入れたから空気が抜けたのかもしれない。
今回は、彼に両輪とも空気を入れてもらった。

ひさびさに乗った愛車から
彼の愛情を感じた、気がした。



てなことがあった今日この頃。
僕は本当に泳ぎにいきたいので、
もしも明日も空気が抜けていたら、
ドクターサイクルのもとに水着で訪れようと思ってます。

大豆デンキュー 古沢


この記事が参加している募集

#夏の思い出

26,289件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?