ドクターサイクル

自転車が壊れた。
同居人が一年前くらいに持ち込んだもので、
後ろのタイヤがふにゃふにゃになっている。

自転車屋に向かう。
ネットの評判によると

おじいちゃんが丁寧に修理してくれた

なるほど、なかなか高評価なようだ。


現存するどのビークルよりも
進みの悪い壊れたそれを
なんとか、その自転車屋まで押し進める。

休日ではあったので、定休日かと心配したが、
シャッターは開いている。
すでに修理済みなのであろうか、
数台の自転車も店頭に停めてある。



店内には誰もいない。

「すみません~」

返事はない。

駄菓子屋よろしく、店内から僅かに
四畳半とテレビが見える。



店内とその和室の間くらいの空間に
「彼」はいた。

あしたのジョーの最後みたいに
俯いてピクリとも動かないご老人。

「事切れてる・・?」
縁起でもないようなことを
考えてしまうくらい動かない。



「あの、、自転車直してほしいのですが、、」



もはや自転車どころではないが、
「生きていますか?」なんて
失礼なことを言えるほど不躾ではない。


「自転車?どうしたんだい?」
思った通り、彼は眠っていただけのようだった。
座ったままの彼に用件を伝える。


「あの、後ろのタイヤが漕ぐたびガタついて。」
「そうか、空気漏れだね、空気入れ使って。」


早いよ。
自転車を問診だけで片づけちゃ駄目だろ。


「あの、一応見ていただいてもいいですか。」
とりあえず停車している場所までは
来てもらわなければ、彼はまた燃え尽きてしまう。


しぶしぶ立ち上がり、
自転車のそばまでゆっくりと歩いてくる。




「この自転車いつ買ったの?」
「去年くらいですかね、引き出物でいただいて。」
「そうか、空気がないだけだね。」


早いよ。どんだけ空気入れさせて返したいんだよ。


「そうですかね、前までパンパンだったんですよ」
「ふうん、、」
そう言うと、訝し気に自転車を触る。





「空気が抜けてるだけだね。」

やっぱりなのかよ。触診してもそうだったのかよ。



仕方ない。
ここまでしてもらって素人の僕が
文句を言ってもしょうがない。

近くにあった空気入れで
自転車に空気を入れて、彼にお礼を言う。

「ありがとうございました~」


もう寝ている。
徹夜で桃鉄でもやってたのかよ。


とはいえ、見違えるほど
速く走る自転車を漕いで帰宅。

「面白い自転車屋もいるもんだな」

就寝し、翌日買い物をするために
自転車にまたがると、


完全に後ろのタイヤの空気が抜けていた。


パンクしてんじゃねえか。


頼むよ。
中野まで行くの自転車ないときついよ。

まったくさ、逆にもう一回行ってみようかな。

大豆デンキュー 古沢


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