さよならニューハーフの夢 とおくのまち 20

なぜ、ここがわかったのか。答えは、意外と簡単でした。
私は家を出てくる時、携帯電話を置いてきました。それは、もう連絡を絶つという意思からです。
しかし、妻がそのリダイアルから、この店の電話番号を知って父に告げ、そして見つけ出したというだけのことです。
前のロッカーの件といい、妻は道を間違えたのだ、探偵にでもなればよかったのではないだろうか。
半信半疑で追ってきた父は、確認のためか、昨日から、この店を張っていたと聞きました。
そして、今日は見張っていたけれど見なかったので心配して踏み込んだと言われました。
その日は、傘をさしていたこともあるし女の恰好で出勤したので父には見つけられなかったのだと思います。
 
「どうして、ここに?」
困惑する私は、ただ、立ち尽くすしかなく、
ママに、事情を話す。

隅のほうのテーブルに座る。父は部下に、外へ出てまつように指示してテーブルに付く。
私も、女の格好のまま、父の前に座る。
さすがに、父に、この格好でお酌するわけにはいかず、ママが対応してくれ、わたしは只々、恐縮して固まっていました。
父も怒鳴ったり、大声を出すとかせずに、冷静に話しを進めていました。
話しの内容を別にすれば、周りからは、ただの客の接待に見えたことだろう。
状況や経緯を話し合い、ママは、自分のかわりに、父を説得しようとしてくれましたが、とうとう父は、私に妻子がいることをママに告げてしまい、私は不利な状況になってしまいました。
それには、逆にママにも驚きと落胆があったと思います。
しかも、母の健康状態がよくないこともあり、ママも戻るようにわたしに言い。
この姿で戻るわけにも行かず、舞台の裏で男の姿に着替えて、そっと店をあとにします。
まるで、はぐれ刑事に説得されて逮捕され連れて行かれる犯人みたいだったにちがいない。
 
重い足取りで三人は、近くの観光ホテルへ歩く。
ロビーでは、不安そうな顔をしたまま、母が待っていた。
「お父さん、お母さんを、もう心配させるなよ。」と言い残して、おじさんは帰り、家族3人がそこに残りました。
放心状態だったのか、その時、どんな話をしたのか、はっきり思い出せない。
ただ、親に、これ以上、心配をかけないように、努めて楽観的に明るく振舞ったのです。
そして、夢は醒めたことを悟り、愕然としました。
それが、たとえ悪夢だったとしても……。
 


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