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#3-2母が泣いた姿を児童に見せた夜。銭湯で体験した世間の冷たさを綴ります。世間の冷たさは、身体を芯から冷やしてくれます。ってそんな冷えはいらん!(貧困幼少期からNPO代表理事までを100日で振り返る)

過去から今への振り返りnote100日投稿チャレンジしています。
見やすくするため、元記事を二つに分けました。

是非前編の#3-1はこちらなので、こちらから読んで頂く方が分かりやすいかもしれません。

銭湯の帰り道に泣く母の姿

その施設には沢山のお母さんと子供がいて、障がいを持つ男児であるMくんとお母さんもいました。風呂がない施設の親子とは銭湯であうことが普通でした。施設には門限があるので、自ずと銭湯の時間も重なるのです。

そんなある日・・いつもの銭湯で事件が起きます。

障がいをもつM君とお母さんがお風呂に入っていた時に、その銭湯に来ていた女性が言うのです。

「あんな大きい男の子を女性風呂に入れるなんて!」

Mくんは小学生の高学年でしたが、体格がしっかりしていたのです。
身体は大人に近づいているけど、Mくんは時に奇声を発し、手をぶらぶらし、会話もあまりできなかったのをおぼえています。
お風呂屋さんって声が反響するんですよね。

Mくんはいつもどおり「おぉ・・お」と発して、手をぶらぶらさせていました。言葉が銭湯の湯気と同時に響き渡ったとき、その場にいた私の母たちには寒い空気が流れていたようでした。

Mくんのお母さんは豪快というよりは細い線でコスモスのようなおしとやかで静かな人でした。「すみません・・・すみません・・」と周囲に謝って申し訳なさそうに早く銭湯からでられるように準備しているようでした。

・・・そのとき・・・

「なにいうてんねんっ!簡単に言うけどな、大変なんや!育てた事が無いから言えるんや!」

銭湯の湯気で濁る世界の中で怒りの声が飛びました。

湯気が空間を曇らせた空間の中で、濁った声の反響がするわけです。私は驚いて、瞬間的に何んだ!?となったわけです。
(正直その手前は謝罪しているということは気づいていましたが、その前の意地悪な声は私は気づいていませんでした。)

その時、謝っていたM君のお母さんは泣いていました。

一喝したのは、同じ母子生活支援施設にすむ〇ちゃんのお母さん。
〇ちゃんの妹は障がいがあると聞いていましただからこそ、Mくんのお母さんの気持ちと重なったのではないかと帰り道お母さんが言っていました。

なんだなんだと思っている間に、無言が続いてMくんのお母さんに文句を言った女の人は風呂からそそくさとでていきました。

Mくんのお母さんは「ありがとう・・」とOちゃんのお母さんに寄り添っていました。(ただ、ここはお風呂なので・・裸です)

その日は何となく言葉を発してはいけない気がして、なんとなく黙って浴室から出て、着替えて銭湯を後にしました。

その日の空は月が出ていました。

声を発しないその日の帰り道、銭湯の道具を片手に母が言うんです。

「〇ちゃんのお母さんかっこよかったなぁ・・・。あんな・・・、お母さんも物凄く言いたかってん。何言うてんのて・・。言いたくて喉のところまで言葉が出かかってたけど・・・、
・・・でも・・でも・・言えへんかった。(ぐすっ・・)だから、あーやって〇ちゃんのお母さんがいってくれはってよかった・・。ホンマよかった。」

母を見ると、夜空を見上げながら泣いていました。

当時の私は何がどうなっているのかわかっていませんでした。
関係ない母がなぜ泣いているのか?
Mくんのお母さんはなぜ謝ったのか?
どうして〇ちゃんのお母さんがあんなに怒ったのか?

母は、簡単に泣いたりはしません。この日、母の涙を初めて見ました。

5、6歳の私にはわからないことが多かったです。
世間は温かいけれど、時に極寒。心が凍えそうになることがあります。
人の些細な一言が人の人生を大きく傷つけることがありますね。

言葉は刃物で、狙って傷つける人もいれば、
何も考えず傷つける人もいる。

今考えると、Mくんに対して思った女性の気持ちも想像できます。
自分が同じように銭湯にいて、体格の大きい男児がいた時には驚いたりすることも想像できるからです。
ただ、見るからに障がいがあることがわかる上で、その母親を責める言葉を発する世間の冷たさは正義を振りかざした意地悪なひとのようにも。Mくんのお母さんはわざとMくんを女風呂に連れて入っているわけじゃないのは、Mくんの言動で目に見えてわかったはずだからです。

〇ちゃんのお母さんがMくんのお母さんを代弁するかのように言った当たり前の本音だったかもしれないけれど、自分の事じゃない事だけど、誰かがその痛みを代弁した姿は温かった。

今も男児をいくつまで女性風呂にいれるのか?!という話はあります。
ネット記事をはりつけました。
母子で男児の場合には母子家庭で子供が女性という時とは違う苦労があるのではないかと思います。
もし、離婚して女手一つで育児をする。その子供が障がいがあったときに、それでも一人でいれなさいよ!男湯でしょというのでしょうか?

家に当たり前に風呂があればこんなことは悩まないかもしれないけれど、悩む家庭もある事は知って欲しいなと思います。

この施設に1年ほどいたあと、私はヤクザの隣という、地獄のような環境に行くわけですが、どうして母はそこを後にしたのか?ということは、明日書きます。

(参考)ひとり親お母さんの駆け込める場所

紹介した母子家庭支援施設。知らない方も多いとは思いますが、全国に272施設あるようです。

社会福祉法人 全国社会福祉協議会・全国母子生活支援施設協議会/<都道府県ごとの施設数>

母子家庭支援施設の費用は覚えていなかったので検索しました。
明記はされていませんが参考になると思います。

収入に応じて、一部負担金を区に納入して住める場所です。
生活保護世帯・住民税非課税世帯の方は利用料はかかりません(水光熱費は各自の負担になります)。

母子生活支援施設ナオミホームHPより

18歳までの子供を養育されている方はこういう場所もあるんですよ。
悩んだときの選択肢に入れると同時に、悩んでいる人がいたら是非お伝えください。しんどい時、頑張り続けるのは辛いからこそ、ちょっと寄り添える場所は全国にあるんですよ――――!

ずっと甘えつづけることはできないかもしれないけれど、ちょっと寄り添いたいときには、寄り添える社会もあります。

〇ちゃんのお母さんがお風呂場で発したことはこのnote書くまで忘れていました。今思い返すとかっこいい大人が居たんだなと。そのかっこよさは、「自分の気持ちを発するということ」じゃなく、「飲み込まれた気持ちを代弁する」という事の重みです。

Mくんのお母さんは、発言に対して謝った。色んな思いはあっただろうけど、飲み込む強さと、その後の涙に色々なものを思い出すと目頭が熱くなります。

読んでくださった方の周りにシングルマザーの方がいらっしゃって困っていらっしゃったら、こういった場所がある事も伝えてもらえたらと思います。

熱くなりすぎてちょっと重たかったかもしれません。
それでも温かい社会でありたい。

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ささいなことで人生は変わると信じています。それは、人生の大きな決断の手前にあるキッカケになるのではないかと。節目を思い出すと決断の前には、ささいなキッカケがあったからです。見て下さったあなたの何かのキッカケになればと思って綴っています。
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