「猫を棄てる」感想文

入院してからあの俳句好きの先生のことをよく思い出す。石山寺の庵での句会のことだ。ずいぶん熱心に句の指導をしていただいた。あの時わたしが詠んだ句は…鐘の瑕めぐりていくつ…下の句はなんだったか。あの頃のわたしは俳句に夢中だった。歳時記を常に持ち歩き読みふけっていた。そう言えばあの先生も使い込まれた物を持っていて丁寧にページを繰っていらした姿を思い出す。遠い遠い昔のことだ。
数年後、わたしは弁護士の卵と結婚した。彼は生真面目に弁護の仕事に取り組み、阪急の顧問弁護士まで務めた。三男二女にも恵まれた。一人は医者にもなった。ただ長女は結婚してまだ子どもが中学生の時に膠原病で亡くなってしまった。総子…可哀想なことをした。まさか娘がわたしより先に亡くなるとは思ってもみなかった。結婚後遠ざかっていた作句にのめりこんだのはそれからだ。残された長女の夫は早々と再婚してしまったが、子どもたちとの折り合いは悪く心配の種であった。総子のことを思い出さない日はない。「子に供ふ蜜豆はり器くもらせて」
総子が待っている。

「鐘の瑕めぐりていくつ…」の句は私の義父の母の句です。俳句を作ることが好きで「馬酔木」「霜林」に掲載されたこともあったようです。没後、義母が「花月夜」という句集を作りました。私はそれを一冊譲っていただきました。嵯峨野に住んでみえたので、その情景を詠まれたものが多いです。「猫を棄てる」を読んだら会ったことのないこの義父の母が思い浮かびました。

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