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『虎に翼』最終回 母の戦前・戦中・戦後のたくさんの思い出たち

「虎に翼」が2024年4月から放送されて、本当にありがとうと言いたい。
3月末、私は36年間勤めた会社を退職し、やっと自分の時間を持てるようになった。仕事にかまけて、母には親孝行らしいことを何もしていない。何ができるんだろう、とずっと考えていた。

93歳になる母は老人ホームにいて、認知症もあり一人での外出もままならない。
そんな時、NHK朝ドラ「虎に翼」の告知が目に留まった。

このドラマは1913年生まれで、日本初の女性裁判官となった三淵嘉子をヒロイン(寅子)にした作品。母は1930年生まれで、寅子とは7歳差。戦前、戦中、そして戦後を同じ様に経験している。もしかしたら、このドラマを一緒に見たら、母の昔の思い出を聞けるんじゃないかと思った。

4月1日。毎朝7時40分に母のホームを訪ねる日々が始まった。
母の着替えを手伝って、8時までにはテレビの前に座る準備を整える。放送が始まる直前には、テレビの眩しさを避けるためカーテンを閉めるのがいつもの流れ。母はホームの朝食、私はコンビニのカフェラテとおにぎり。朝ごはんを食べながら「虎に翼」を一緒に見るのが日課になった。

母はテレビに夢中で、気づけば朝食はほとんど手つかず。8時15分に「つづく」が出ると、「ふぅ、見てる場合じゃなかったわ」ってなるのがパターン。寅子の日々を自分に重ねて懐かしそうに話す日もあれば、難しい場面には眉間にしわを寄せて考え込んでいる日もあった。

9月28日金曜、ついに最終回を迎えた。
母が「ほ~、おしまい」とため息をついた。
「今回の朝ドラはちょっと忙しかったわね。すっ飛ばし過ぎ。急いで終わっちゃった。」とポツリ。確かに、後半は登場人物も増え、時間経過も早く、内容も深刻な裁判が続いた。母には少し難しかったようだ。それでも、毎朝一緒に見続けることができて、色んな話ができた。本当に幸せな時間だった。

最終回での母の思い出話。
半年間の「虎に翼」プレイバック映像が走馬灯のように流れ、最終回は終わった。いつも様にカーテンを開け、部屋に日差しを入れると、母から進駐軍が東京に来た時の話が始まった。母は虎ノ門で生まれ育ったので、その頃のことをよく話すが、母の記憶がどこまで正確かはわからない。銀座の三越の近くにあったアメリカ人向けのお店で働いていた知り合いの女性がいた。彼女が時々チョコレートを持ってきてくれた。「虎に翼」にも度々登場した板チョコだ。

それが母は宝物のようだったという。

「包み紙が銀紙でしょ、そんなの見たことなかった。お菓子が綺麗に包まれてキラキラ銀色に光ってたのよ。
それをね、銀紙を爪でこすって伸ばすと綺麗ツルツルになるのよ、飾りにしたりした。姉妹で奪い合ったりもしてねえ(笑)」と母は楽しそうに話す。チョコレートの味のことではなく、美しく包まれていたチョコレートというお菓子にどれだけ感動したか…

そんな懐かしい思い出の数々を、母から引き出してくれた「虎に翼」に出会えて、本当に良かった。ありがとう。6ヶ月間、母は断片的にたくさんの思い出を話してくれた。ポツポツとNOTEにも記録していこうと思う。

今日から新ドラマ「おむすび」が始まった。
母は「タイトルが簡単でいいわ」と笑った。

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