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Documentary Series vol.1 Prologue “ドキュメンタリーのあるところ”

ドローイングアンドマニュアルの映像には、ドキュメンタリー手法でつくられたものが多くあります。

尺の限られたCMはテレビというメディアから抜け出し、WebやSNSをはじめとしたインターネットの大海原へ。その結果、マーケティングの上で導き出されたマス向けの表現方法から、少数の趣味嗜好を持つターゲットに確実に刺さる表現方法へと移り変わりました。得るべきは「インパクト」から「共感」に。
なぜ「ドキュメンタリー」が今の時代にフィットしていて、確実に共感を得るのか。今回は5つのキーワードで紐解いていきたいと思います。

キーワードその1「Transparency」
ドキュメンタリーは露呈する

「ボウリング・フォー・コロンバイン」by マイケル・ムーア (2002)

ドキュメンタリー映画のパワーを世に知らしめた衝撃作。1999年に起こったコロンバイン高校での銃乱射事件を基に、マイケル・ムーア監督がアメリカの異常な銃社会の実態を、皮肉とユーモアたっぷりに描きます。アカデミー賞 長編ドキュメンタリー映画賞、カンヌ国際映画祭 55周年記念特別賞、ベルリン国際映画祭 観客賞をはじめ、国際的映画賞を多数受賞。
この映画の凄いところは、アメリカの銃社会にフォーカスし深掘りしていくことで、さらなる深部にある、アメリカという国が抱える問題の本質を浮き彫りにしたことです。この映画を観て、二度とアメリカに住みたくない、と正直思ってしまいました。


キーワードその2「Reality」
ドキュメンタリーは語る

「いのちのたべかた」(2005)by ニコラウス・ゲイハルター

食べ物の大規模・大量生産の現場を描いたドキュメンタリー映画。ナレーションやインタビュー、BGMなどを一切入れず、生産現場とそこで働く人々の姿を淡々と映し出す。2008年に公開され、アカデミー賞 長編ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされた話題作「フード・インク」より以前に食品産業に切り込んだフード・ドキュメンタリーのパイオニア。恐ろしくも美しい大量屠殺や農薬散布現場シーン、ミニマルテクノ感溢れる工場音にうっかり劇場で寝落ちしそうになりましたが、言葉で語られる以上に深く脳裏に焼きついたのは間違いありません。It was telling the truth, the whole truth, and nothing but truth.


キーワードその3「Question」
ドキュメンタリーは問いかける

”Exit through the gift shop” by BANKSY  (2010) 

その作品の社会性と作家本人の正体が未だ明かされないことからアート界で唯一無二の存在感を放つバンクシーの初監督となるドキュメンタリー映画。
あるひとりの映像好きの男がストリートアートシーンをドキュメンタリー映画にしようと試みるも、映像センスが皆無なことから逆にバンクシーが彼をドキュメンタリー映画にした、という二重構造。映像を諦めた男が自らストリートアーティストになるも、その作品の芸術性とは全く関係なくアーティストとして成功していくさまを描いた本作は、アート作品とアート市場の矛盾を露呈し、「アートとは何か」を問いかける。


キーワードその3「Story」
ドキュメンタリーは物語

スライド・ギターの名手であり、多種多様な音楽の研究者で“ルーツ・ミュージックの探求者”としても知られるライ・クーダが、キューバの老ミュージシャンたちとバンドを結成。その音源に惚れ込んだ映画監督ヴィム・ヴェンダースは、このほぼ無名のミュージシャンたちの来歴にキューバの美しい光景を織り交ぜ、演奏シーンと共に音楽ドキュメンタリー映画を制作しました。この映画のヒットにより、バンドのアルバムはグラミー賞を受賞、映画はアカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞にノミネート。音楽そのものとミュージシャンの人生が持つストーリー性がドキュメンタリーという形で表現され、改めて作品そのものの価値を高めるに至った好例。

キーワードその5「Attachment」
みんなごとから自分ごとへ

ドキュメンタリー制作を通じて、制作チームが、現場に深くコミットすることで商品(Product/Service)や取材対象に対する愛着や理解が深まります。クライアントと制作が親密な関係になり、お互いがお互いのファンになることはPR面でも健康的で理想的な関係と言えます。その関係性を継続させることで、双方の理解や愛情が積み重なり、より本質的な表現の追求や、長期的で挑戦的なプロモーションプランの立案が可能になるなど、共通の目的を持つチーム全体が成長し、よりスムースで洗練されたPR活動が推進されることも少なくありません。


敢えてみせてこなかった制作プロセスをオープンにすることで人々の共感を、作られたイメージではないありのままの事実を語ることで、ユーザー(ビューワー)の信頼を、途中経過のダイナミズムをストーリーとして提供することで付加価値を、バックグラウンドを語ることで高い芸術性を、そしてクライアントとの好関係を得ることができるのです。

またドキュメンタリー映像はコピーやビジュアルでは届き得ない深部に訴える力があります。時にそれは鋭くグサリと刺さり心に永く癒えない傷跡を残します。訴える側のメッセージは最も自然な形で「自分ごと化」され観る者の腑にストンと落ち、深くそして永く人の心に留まるのです。

次回はドローイングアンドマニュアル制作のドキュメンタリー映像を紹介するシリーズ第一弾、超密着取材で2本の長編ドキュメンタリー映画を世に送り出した辻󠄀本和夫の現場に迫ります。

(6月16日公開予定)

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