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Beyond the Verbal Communication|妄想の脳内世界をダイレクトに描き出す。鈴木友唯の非言語コミュニケーション

 ここ数年、「言語化」という言葉をよく目にする。まるで現代社会において、“思考を言語化すること”が必須スキルのように声高に語られている。自分の思考を言語化できないやつは思考が浅い、物事をインプットするための感受性が弱い、自分の想いを人に伝える能力が低い、というような。面白い映画を見たときに、それを「言語化」することで、その感動を自分のものにする。理不尽な扱いを受けたときに、それを「言語化」することで、怒りの理由を受け入れる。もちろんそれは必要とまでは言わないけど、あったら便利なスキルだと思う。言語化することによって思考を整理できるし、客観視できるし、言語というツールを使って思考を他人に伝えることもできる。言葉で共有することで議論を高めていくことができる。言語化する過程で、自分の中の忘れていた記憶と結びついて感動が増幅する場合もあるし、文字に書き出すことによって怒りがおさまり、冷静な対処方法を思いつくかもしれない。そういう意味で、ときには言語化はとても便利だ。

 「私のまわりではだいたい3つの言語しか使わないかもしれない。『かわいい!』『天才!』『気持ちいい!』の3つかな」鈴木友唯は恐る恐るそう語った。「感覚をそのまま形にしてみたいんです。チームで作るときは、ただひたすら気になる画像を集めたり、なんとなく絵を描いたりしていくうちに、ゴールは“こんな感じかな”っていうのがわかってくるんです。それを咀嚼して、まとめて、形にして。そういうプロセスでできあがる表現を追求したい。そうすると、誰の意見も取りこぼさなくていいし、現実世界にないものを作れるような気がするんです」。感覚を、衝動を、気持ちよさをぶつけあって、その混沌から生まれてくる何かを表現していく。創作において、言語化しないという選択もあるのではないか。感情や感覚を言語化してしまうことで、もしかしたらこぼれていくこともあるのかもしれない。鈴木友唯の言葉には、妙な説得力があった。


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プロフィール
鈴木友唯/Yui Suzuki
アートディレクター/映像作家/イラストレーター

イラストやアニメーションを用いたクラフト感溢れるアートディレクションでこども番組やTVCM、コンセプトムービーなど幅広く手がける。

https://www.yuisuzukiworks.org

実写では描けない、非現実世界を描く

 サンボマスター史上、初のフルアニメーションMVとなる『ヒューマニティ!』は、鈴木友唯の念願の仕事だった。鈴木が小学生の頃、『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』を初めて聴いたときに、身体中に血がめぐるような熱い感覚を覚えて以来、鈴木の青春はサンボマスターと共にあった。所属するドローイングアンドマニュアルで制作した『輝きだして走ってく』『花束』『オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで』には、制作スタッフや(サンボマスターのバンドTシャツを着て気合を入れて臨んだという)イラストレーターとして関わることはあったが、今回初めてメインのディレクターとして起用されることとなった。
 サンボマスターと言えば、情熱をかきむしるようなエモーショナルなロックンロールという印象が強いが、鈴木が提示した方向性は、どちらかというと客観的で優しい世界観のアニメーションだった。「最初に曲を聴いたときに、まず頭の中に浮かんだのが『人生』のことだったんですよね。もちろん『ヒューマニティ』っていう言葉は“人間性”とか、“人間らしさ”、っていう意味なんでしょうけど、この曲を聞いてみて、もっと大きな広がりみたいなものを感じました」。これまでのサンボマスターのMVのように、実写を使ってあるシチュエーションやストーリーを切り取って描くことはできるかもしれないが、この「大きな広がり」は自分の得意なアニメーションでなら表現できるのではないかと思い、手を動かした。「この曲は、すべての命や幸せを肯定する楽曲のように感じました。それはフラれてしまった男の子とか、逆境にめげずにがんばっている女の子とか、そういう特定の誰かじゃなくって、聴いている全員を励ましてくれるというか、サンボマスターというバンドが根底に持っている優しさみたいなものを、なんとか表現できたらいいなと思って」。
 「人生」と言いつも、鈴木が選んだモチーフは、パンジーだった。


 「もともとサンボマスターの歌詞は、人を花に例えることが多いんです。それは私も好きなところだったし、特定の誰かを描くんじゃなくって、性別や年齢を超えて、誰もが共感できるような、絵本のようなMVを目指したかったので、パンジーの花を主人公に設定しました。それにパンジーの花って、少し人間の顔みたいに見えるんですよね」。
 映像の中では、パンジーの花がその人生を通して喜怒哀楽を感じ、死んでいく姿が描かれる。鈴木自身もそうだったように、サンボマスターの疾走感あふれる優しい楽曲が、誰かの人生を後押しし、生きる上で起こるたくさんの出来事を肯定してくれるようなMVになった。
 「最初から、『死』を描くことは決めていました。自分自身、数年前に父を亡くし、死というものが人生の中で必ず起こるものだと感じたのがきっかけです。もちろん父が亡くなったときは悲しかったけれど、それは誰にでも起こる当たり前のことであって、悲しいだけじゃない何か言葉にならない感覚を感じました。その感覚を映像にしました」
 MVの中で、パンジーの花は最後に死に、その花びらが舞っていく。そしてまた種となり、新しく生まれていく。物語は何度も何度もループして、パンジーはその度に生まれ変わっていく。父の死を経験し、鈴木の中に生まれた言葉にならない感覚の種が、このMVの中で生まれ変わり、開花したように感じる。


子どもという未言語化生物との対話

 そもそも鈴木の主戦場は、子ども向けコンテンツのアートディレクションだ。自分自身でも、こども図工教室YAKKEの主宰として活動しながら、NHK Eテレ『u&i』『パプリカ』『おかあさんといっしょ』、テレビ東京『シナぷしゅ』などの子ども番組のアートディレクションを務める。わたしたち大人の間では、同じ日本語話者同志のコミュニケーションにおいて「言語」が有効なコミュニケーションツールとして機能するが、まだ語彙力もコンテクストも持たない子どもたちに向けたアートディレクションは、概念を「言語化」するだけでは機能しない。子どもたちの感覚を捉え、好奇心や想像力を刺激しつつ、学びや発見を与えなくてはならない。

u&i写真


 特にメインで担当している『u&i』は、“身体障害や発達障害のある子どもや外国人の子どもなどマイノリティーの特性を知り、理解を深める番組”と番組HPにあるように、そもそもが「自分とは違う他者」とのコミュニケーションを培う番組であるので、「同じ言語」で会話しているつもりでも、それぞれ違う感情を刺激する場合もある。
 「この番組を通じて『自分が普通である』という感覚を捨てました。私だって誰かから見ると、異質な存在だし、誰かから見るとマイノリティーであるかもしれないというのは、常に意識するようになりました」。

Foorin楽団


 NHKの2020応援ソングとして子どもたちに絶大な人気を誇る『パプリカ』のプロジェクトのひとつ、「Foorin楽団」のアートディレクションも務めた。Foorin楽団とは、メインで『パプリカ』を歌うFoorinに加えて、病気や障がいのある子どもたち10人を加えて結成されたインクルーシブ楽団だ。年齢も、障がいの有無も、性別も、さまざまな違いを持つ子どもたちが、楽曲を軸にひとつになった。鈴木はこの楽団が演奏する楽曲のMVを担当した。
 「Foorin楽団のみんなのやりとりや関係性を見ていると、そこに一つの『世界のあるべき姿』だったり、『理想郷』のようなものを感じました。そんな素晴らしいメンバーのひとりひとりの人間性、そしてお互いを想い合う関係性にワクワクするような彩りを添えられたらという思いで、カラフルで自由な世界観を構築していきました」。
 鈴木が感じたインスピレーションを具現化すると、少し現実とは異質な世界観が出来上がった。それは不思議とFoorin楽団にはぴったり合っているように思える。日常の世界ではもしかしたら少し窮屈な思いを感じているかもしれないFoorin楽団のみんなは、この独自の世界観の中では、とても生き生きしているように見える。そしてきっと、同じ病気や障がいを持つ子どもたちにとっても、彼らの姿は輝かしく見えたのではないだろうか。

感覚だけでつながる非言語的無法地帯を求めて

 冒頭で鈴木が語ったように、鈴木は感覚をダイレクトに映像表現に落とし込む方法を追求したいと考えている。本人は「ただの遊びです」と語るが、俳優の山田由梨、ミュージシャンの金光佑実、ヘアメイクの呉あきえ、カメラマンの斎藤美帆、映像作家の多田海などと結成した映像実験室「ゆゆゆ倶楽部」では、メンバーたちが表現したいイメージや、試したいスキルを持ち寄り、独特の世界観を持つ映像を実験的に作り上げている。

ゆゆゆ倶楽部アー写

 「私はアートディレクションを担当していて、最後にまとめる立場なんですけど、なんかかわいいの『なんか』とか、だってかわいいじゃんの『だって』とか、その言語化できない感覚を何かに変換できないかなって思って実験しています。メンバーがピンと来る画像だったり映像だったりを持ち寄っていくと、メンバーの感覚ややりたいことがなんとなく共有できるように思っています。『この子はこういうことをやりたいんだな』とか『こういう表現をやってみたいんだな』とか。そうすると、使う言語が減ってきて、最終的には『かわいい!』『天才!』『気持ちいい!』くらいの言葉しか使わなくなってきて」。

 その思いは、武蔵野美術大学に通っていた頃から思い描いていた理想に通じているそうだ。
 「年に一度開催される芸祭(作品を発表する文化祭)の時って、突発的なパフォーマンスをするゲリラ行為が禁止されているんです。教室とか、中庭とか、自分の表現を行う『場所』を生徒が買って、そこでしか表現をしちゃいけないルールになっているんですが、私はどうしても大学の中にある原っぱを買いたかったんですね。でもそこは値段が高くて。なので、仲の良い友達を集めて、みんなでその原っぱを買ったんです。そしたらその原っぱを一緒に買った友達が変わるがわるゲリラパフォーマンスをしていくんですね。その無法地帯みたいな光景がすごく印象に残ってて。だから、わたしは最終的には『村』を作りたいのかもしれない。そこはきっと感覚が共有されていて、住んでいるみんなが幸せな村になると思います」

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 鈴木が作った村では、どんな言語が話されるのだろう。その村で育った子どもは、どんな思考をするのだろう。言葉にできない感覚を、言葉の通じない相手に伝えるために、鈴木は日々、感覚と表現手法を研ぎ澄ませている。

鈴木友唯の仕事

ドコモ未来ミュージアム「未来デジタルアートレッスン」

「ミライくんとせんせいによる、『まず絵ってどうやって描くの?』という疑問に答えるムービー。私自身、9歳のときに準グランプリをいただいたコンクールでのうれしいお仕事でした」

<NHK>2020応援ソング「パプリカ」『Foorin楽団』ミュージックビデオ


「いろんな障がいや特性のある仲間とFoorinによって結成されたFoorin楽団。年齢や言葉を超えた絆とパワーに心が震え、それを私なりにアートディレクションで表現しました」

Kaco「ベイブ」


「ミュージカルのようなハッピーが溢れる曲調に合わせて七変化するKacoちゃんの世界を作りました。可愛くて軽やかでお気に入りの曲と世界観です」

泡チャレ!


「コロナ禍での手洗いの時間を少しでも楽しく、チョコレートプラネットさんと一緒につくった自主コンテンツ。キュートで楽しい大好きな映像のひとつです」

SUNTORY プレミアムモルツ|ゆるめる時間をプレモルと

洗濯編


ロボット編

イエスマン編

プレモルが持つ特別感を、もう少し身近なものに感じてもらえる映像を目指しました。コピーにある「ゆるめる時間をプレモルと。」にあるように、日常の「あるある」をゆるくコミカルなタッチで描き、いつもの時間を特別にするビール=プレモル、という印象をつくれるように考えました。


番外編 鈴木友唯が選ぶ、オススメしたい映像作品

Mr.Children 「彩り」 MUSIC VIDEO


「森本千絵さんが手掛けられたMV。多くは語らなくても家族の繋がりを感じる。見るたびに涙が出てしまう大好きなMVです」

Maia Hirasawa - Boom! Music Video 「JR九州/祝!九州キャンペーン」CMソング

「1つのことをみんながお祝いしているだけですごくパワーを感じる。キュートでパワフルで大好きな映像です」

JR東日本 北陸新幹線CM

「ポールコックスさんのイラストが可愛くて大好きなCM。1人1人の人物や新幹線の表情が色鮮やかに描かれていてとても素敵です」

ゼスプリ キウイ TVCM 2020「好きなことを楽しみながら」篇 60秒


「コロナ禍で流れるたびに見入ってしまったCM。トゲトゲしたニュースばかりの中でこのCMが流れるととっても癒されました」


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