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明日は待っているのか?

著者・鈴木おさむ氏は長年、SMAPと親交の深い放送作家だ。デビューから解散までつぶさに見続け、超人気番組SMAP×SMAPを手がけたことで有名。ドラマ脚本の腕も凄まじいのだが、直近の「離婚しない男」を最後に引退を表明。そんな鬼才の描くフィクションから読み取れたものは、公開処刑の暴露ではなく「わずかに残された再結成の芽を潰さない配慮」だった。

主な登場人物は、リーダー、タクヤ、ゴロー、ツヨシ、シンゴ、モリくん、イイジマさん(敏腕マネージャー)など。グループ名も事務所名も出てこないが、すべて自明の理。当然、読者は悪名高い公開処刑の背景を期待してページを捲ることになる。

しかし、全体の4/5はSMAP成長物語。身体を張ったデビュー、モリくん脱退の背景、タクヤの結婚発表の経緯、5人旅などを通して、個々の愛すべきキャラ、それに、リーダーを核とした繋がりの強さが描かれている。これを読んで5人の再結成を願わない人はいないーそれくらい深く感情移入させられる展開だった。

終盤は一転、公開処刑のくだり。しかし、裏で操ったフィクサーの闇は一切描かれず、当初の番組予定とは異なる展開に翻弄された5人とマネージャーと番組スタッフの焦り、苦悩、不安、緊張感がリアルに描写されるのみ。最終的に、この小説に悪者は登場しなかった。

気持ちの悪い配列

読み通して感じ入ったことは、タクヤがいまだ所属する旧事務所の関係者の心理を不要に煽り立てない配慮。言い換えると、世間が感じている「4対1」の「1」を孤立させない配慮。可能性は低いが、再結成を阻害するハードルを可能な限り下げることが著作の真意ではないかと感じた。

そう言えば鈴木氏は、この本の前に「仕事の辞め方」という傑作を出版している。現職を引退するケジメとして、また、50代の生き方を問い直す契機として書かれた作品である。そう考えると、引退を弾みとして「もう明日が待っている」が出版された可能性もあるし、5人を守るための問題作を出版する引き換えに引退を決意した可能性も考えられる。真意は不明だが、著者の覚悟が伝わる力作だ。

それでも、この著作から伝わる真意は何かと問われれたら、「公開処刑の闇は著者が墓場まで持っていく」、あるいは、「公開処刑の闇は再結成まで明かされない」ということかもしれない。しかし、謎を明かしてしまったら、再び解散してしまう危険性もあるため、結局、我々一般人が知ることはないのだろう。

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