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わんとワンの物語 5

あの白いクルマのおじさんは相変わらずわんのことをワン1号と呼んでいる。センノーされてるつもりはないけど、もうすっかりわんの中で「ワン1号」という名前がカクリツされている。

この宇宙のニンゲンは色々なモノにセンノーされているとワン父が言っていた。毎日読んでいる紙に書かれた文字にセンノーされ、毎週買うシュウカンシにセンノーされ、四角い箱から流れているジョーホーにセンノーされ、偉いセイジカにセンノーされ、コーチョーセンセーにセンノーされ、だからニンゲン同士の争い事や殺しあいが無くならないんだそうだ。

わんはカンジョウの海から創られたんだとワン母が言っていた。わんはワン母とワン父が創ったんじゃないの?と聞くと、おまえの故郷は「カンジョウの海」という小宇宙だよと教えてくれた。それはどこにあるのと聞くと、おまえ自身の中にあるんだよと教えてくれた。わんは生まれたばかりなのでさっぱり意味がわからない。わんはわんが創ったのかと聞くと、そうよとワン母が言うので益々わからなくなってきた。

じゃあ「カンジョウ」って何?と聞くと、カンジョウは「強い心」を造るためのたくさんの部品なのよ、とワン母は教えてくれた。

強い心がないからニンゲンはセンノーに負けて殺しあいをするの。センノーするニンゲンもされるニンゲンも心が弱いんだよ。だから水の宇宙にある工場でたくさんのカンジョウを造ってるのよ。時に不良品もできるんだけどね。でもそんな不良品だって強い心を造るためには必要な部品なの。この宇宙に無駄なカンジョウなんて何ひとつないの。カナシミもイタミもクヤシイもウラミも、強くなるためにはとても大切なカンジョウなんだよ。そして、この宇宙にいる全てのモノは何ひとつ無駄なものはないの。だから6号が水の宇宙にいたのは必要だったからそこにいたのよ。全てのものには意味があるの。

お母さん、6号って何?


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