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絞め殺しの木 @41

ガジュマルは通称「絞め殺しの木」と呼ばれているが、ガジュマルよりも更に強烈な絞め方をするのがアコウの木だ。

そのアコウの木の生育形態がまた面白い。


鳥や小動物によって運ばれたアコウの種子は別の木に付着発芽し、そこから発育した気根が成長と共に元の木を絞めあげるように覆いつくしていく。

寄生した木から発芽した気根は、寄生元の木からぶら下がり空気中の養分をもらいながら、下へ下へと延びてゆく。やがて土に届き大地からたくさんの栄養素をもらうと、気根は急激に成長していく。そして、そこから寄生した木を網の目のように縦横無尽に這いながらの絞めあげが始まるのだ。

普通の植物は日光を求め、上へ上へと成長するが、このアコウの気根は大気から栄養を補充し大地を求めるので、下へ下へと成長していく。そして寄生した木からはいっさい栄養はもらわない。なんとヘソ曲がりで天邪鬼な木なんだろう。

天邪鬼さんに幹全体を気根で絞められた元の木は、陽当たりが悪くなり少しずつ枯れていってしまう。アコウは長い年月を費やして、じわりじわりとその木を絞めあげ、ゆっくりと時間をかけて標的を乗っ取っていくのだ。・・・天邪鬼どころか陰険で残酷な悪魔のようだ。
 
 

そんな悪魔のアコウの巨大木が、長雲峠の森の中にあるというので見に行ってきた。

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根周り5m、高さ20mほどだろうか。張り巡らして絞めつけた気根は見事にアコウの幹本体となり、大地に這う根が次の獲物を狙うように四方に延びている。太い幹の中は空洞になり、絞め殺された元の木の名残りも跡形も全く見あたらない。完璧なる乗っ取り屋、そしてゴルゴ13ばりの見事な仕事のこなし方だ。

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森を散策していると、ふたつめのアコウの木を見つけた。さっきのアコウよりは少し小ぶりで斜めに傾いている。たぶん寄生した元の木が傾いていたのだろう。縦横無尽に這った気根が複雑怪奇な形状の幹になり、その強烈だっただろう絞めつけ具合がうかがわれる。そして幹の中には、枯れて腐りかけた元の木がまだ残っていた。 

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そうか、このアコウの木はまだ完全犯罪の途中なのか。証拠を何ひとつ残さず、完璧なる乗っ取りを完成させるにはまだまだ気の遠くなるほどの時間が必要なのだ。
 
 

もう一度、あの巨大なアコウの元へ戻った。

森の中に悠然と直立する巨大な悪魔。悪魔は悪魔になるほど美しい。悪魔が牙を剥くほどこの森は美しさを増す。鋭利な牙が深く肉に食い込むたびに血は赤くなり森が染まる。時間をかけてゆっくりとゆっくりと森は染まる。そしてそこに奄美大島が根付く。

どれほどの歴史を費やして君は今の姿になったのか。いつから君はここにいるのか。今日も悪魔は奄美大島を喰い僕を喰う。



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