「ひかがみ」が生む山中慎介のゴッドレフト【武道×ボクシング】
ゴッドレフトは強い蹴り足から
ロスなく増幅させるサスペンション=ひかがみ
ストレートパンチャーに共通する「強打のアーチ」
一撃必殺
という意味では、歴代の日本人チャンプではナンバーワンの存在と言えるのが
山中慎介
だったと思います。
その必殺の左ストレート=ゴッドレフトの秘密として、蹴り足の力を拳に最大に使える体の使い方を彼自身が解説していました。
ゴッドレフトは強い蹴り足から
そうなんです。
パンチ力は、腕力や体のヒネリだけでなく、その大元は蹴り足から生まれているのです。
人間が出せる一番大きな力は足から生まれており、一番大きな関節は股関節です。だから如何にその大きな力を効率よく拳に伝えるか、がキモなんです。
もっと言えば、左足の母指球で床を蹴った力を体の捻りで増幅させ、左拳の中指付け根を相手のチンの急所にアイスピックのように当てる山中の極意。
一見スリムな山中の体型は、強い蹴りやパンチ力を生むように見えませんが、細かい筋肉がバランス良くついており、「よくしなる」体質と体使いをしていると思います。
そういえば、大和トレーナーのミットには、その急所だけが擦れ、日々の鍛錬ぶりとパンチの正確性が刻まれていました。
そして山中のボクシングは「如何に強い左ストレートを当てるか?」という出口に向けて、特化されたスタイルでした。
通常のコンビネーションである、返しの右フックも、ボディ打ちも、アッパーもいらなかった。彼の右フックやアッパーは、左ストレートにつなぐスマッシュ気味な軌道。ボディ打ちもほとんどストレートで、左を上に当てるフェイントとして使う場合が多かったと思います。
構えもサウスポーの割には正対していて、強い軸と蹴り足を作るためにアップライト(重心は真ん中)でした。
すべて、強い左を当てるために構築されたスタイルだったのです。
だから、本人曰く「これほど引き出しの少ない世界王者はいなかった」というボクシングで良かったんですね。
そんなスタイルを極めた末の、バンタム級12度の防衛回数……。
強くなろうとして、最新のテクニックやコンビネーションを取り入れようとすることも、、なんだか考えちゃいますよね。
ロスなく増幅させるサスペンション=ひかがみ
以前の記事で、井上尚弥のシンプルさについても言及しましたが、山中はそれ以上のシンプルボクサーだと思います。
>>井上尚弥が基本を大事にする理由
その足から手への力の伝導に関してですが、床を蹴った力を
ロスなく、増幅させる
ことが一番重要なのです。
そして
ロスなく
というところでポイントになる筋肉が
「ひかがみ」
だと思うのです。
ひかがみ(膕)
あまり聞き慣れないですよね?
図中のちょうどヒザ裏の真ん中あたり、「足底筋」に分類される箇所で、剣道では強い打ちを生み出すために、重要視される部分です。
ここで、本記事シリーズのテーマである、武道とボクシングの関連性を述べていきます。
剣道では
手で打つな、足で打て
という言葉があり、山中のボクシング同様に足の踏み込む力をいかに手に伝えるかを重要視しています。
加えて、下半身主導の動きが体の水平移動を生み出し、打ち出し(起こり)をわかりにくくさせる。
>>【武道×ボクシング】打ち出しの気配を消す寺地の世界有数テクニック
しかし、この「ひかがみ」が緩んでいると、せっかくの蹴り足の力がヒザの屈曲によって逃げてしまう。
逆に「ひかがみ」が固すぎると(膝ピンの状態)蹴り足の力が伝わってこない。ロスが出るわけです。
剣道やボクシングのような立ち技競技の場合、「ひかがみ」は適度に緩み、適度に張っている、車のサスペンションのような状態がベストなのです。
蹴り足の力が、足首〜ふくらはぎを通り「ひかがみ」のサスペンション(スプリング)でグンと押し出され、ハムストリング〜股関節の大きな筋肉で増幅され、腰〜肩の回転を経て、最終的に直線方向の強い力に変換される。
ストレートパンチャーに共通する「強打のアーチ」
いま一度、山中のゴッドレフトのフォームを見てみましょう。
ゴッドレフトがジャストミートした場面、左足の力が左拳に伝わった直後ですが、左足から左拳が見事に「線」になっています!
このアーチのような無駄のない線が重要なのです。
ユーリ・アルバチャコフや井上尚弥のストレートもこの美しいアーチを描いていました。
この「強打のアーチ」の真ん中で、蹴り足と打撃をつなぎ、重要な役割を果たしているサスペンション=スプリングが「ひかがみ」なのです。
緩んでいてもダメ、固すぎてもダメ。
適度に張り、適度に弾ませることが、思わぬパンチ力の増大につながります。
ボクシングや剣道だけでなく、日常生活の、歩いている時や走ってる時の、ちょっとした意識で「ひかがみ」は効果的に使えると思います。
歩くとスグ疲れる、最近ヒザやカカトに痛みが、デスクワークで猫背になってる…なんて人はぜひこの優れたサスペンションを意識してみてください。
思ったより、カラダもココロも弾みますよ!
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