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【武道×ボクシング】打ち出しの気配を消す寺地の世界有数テクニック

寺地vs京口、いろんなメディアでレポートや分析が盛んになってますね。

個人的には、解説の長谷川穂積さんがすごく的確なコメントをしていた気がします。

特に、寺地のジャブのテンポについてです。

定期的にポンポン出すのではなく、ポンポーン、ポンとリズムを不規則にして、京口にとらえさせないようにしていた、と。

本当にそう思います。

でも、私はそれに加えてパンチの「打ち出し」について、両者の差を大きく感じました。

詰まるところ、そこが勝敗を分けたのではないかとすら思っています。

(目次)

  1. 「打ち出し」とは何か?

  2. 打ち出しの気配を消す「脱力感」

  3. 距離・角度・リズムを自在に操るジャブ

  4. .寺地の能力を最大限に引き出した京口の存在


  1. 「打ち出し」とは何か?

ボクマガのライター増田茂氏がよくこの「打ち出し」について言及していました。

私は剣道とボクシング(観戦含む)をそれなり経験しているので、その関連性を持って説明していくとわかりやすいかなと思って書きます。

「打ち出し」とは武道では「起こり」と言います。

いわゆる初期動作・予備動作です。

剣道の高段者になると、この「起こり」を狙われます。相手が動き出す瞬間のスキを捉える。剣道で言うと「出ばな技」ですね。

当然、相手の動きが先でスピードが同じあれば、物理的に間に合わないので、「起こり」を引き出す「誘い」も含めて、出ばなをとらえるわけです。

相手が出ようとする気配を捉えて、一瞬早く斬ってしまう。

これをボクシングに置き換えると、「出ばな」とは「カウンター」であり、「起こり」とは「打ち出し」なわけです。「誘い」とは「フェイント」になりますかね。


そして、この「打ち出し」「起こり」の気配が、寺地は非常にわかりずらかった。

それほどスピードが速いわけじゃないジャブを、京口はポンポンと顔面で受けまくっていました。そして徐々にダメージを蓄積していました。

寺地の「打ち出し」のコンマ何秒かが、空気に溶けんでいるように察知しにくいんですね。フワ〜と動き出したと思ったら、すでに着弾している。
相手からは見えているのに何故かもらってしまう、という状況です。


2.打ち出しの気配を消す「脱力感」

古武術で有名な甲野善紀氏によると、この「打ち出し」「起こり」の気配を消すのは「脱力」から生まれてくるそうです。

例えば、野球の盗塁は、左足で地面を蹴ってスタートするとピッチャーに察知されるが、右膝の力を抜き、上体が重力で落ちる力で走り出すと、ピッチャーが察知しにくい。踏ん張りや捻りなどの力感のある動きは相手に察知されやすいのです(しかも体力を使います)。

もっと至近な例で例えると、小学校の長い長い全校集会で、急に貧血で倒れる同級生の察知しにくさ(笑)。…あれこそ、意識のない動き、究極の脱力状態です。


で、先日の試合を見ると、構えた時の「脱力感」は遥かに寺地が上でした。

フットワークから上体の動きまで、常にリズミカルに揺らし、肩から拳までの脱力感を作っています。

加えて、構えたところから一直線でパンチが出てくるモーションなので、京口から見るとグローブがそのまま大きくなって来るような軌道で、察知しにくい。いわゆるノーモーションというやつです(本当のノーモーションパンチは、打ち出しの脱力が必須なので、亀田長男の試合でアナウンサーが絶叫していたアレは、厳密には違うと思います)。

3.距離・角度・リズムを自在に操るジャブ

さらに加えて、寺地は構えを開いて、相手の顔面に近いところに常にグローブを置いていました。リーチは長くなくても、顔面までの距離が近いわけです。

そして、ガードの隙間を拳を縦にして入れたり、サイドにステップして横から入れたり、強く打ったり、空間を埋めたり、相手の視界を遮ったりなどなど、ジャブにさまざまなバリエーションをつけていました。

逆に京口は、常に顔を固めるようにガードをしていました。

ガードを堅く閉めることで、まず力が入っています。その筋肉の緊張によって打ち出しも遅れます。

たぶん京口の狙いだった右クロスがあまりクリーンヒットしなかったのは、この打ち出しの遅さが原因です。

そして両手を顔面につけることで、相手までパンチが届く距離も長くなります。

リーチが同じで(162cm)、スピードもさして差がない両者のジャブの的中率にこれほどの差が出たのは、「打ち出し」「モーション」「距離」に圧倒的な違いがあるからです。

これ、剣道のメン技で言うと、起こりを小さくし、ギリギリまで剣先を相手の喉元につけ、相手の面の上で振りかぶる、という極意に似ていますね。

そんな寺地拳四朗のこの「起こり」を極めた術(わざ)。

加えて、前述のパンチのリズムの不規則さや、水澄のようなフットワーク、横から下からガードが空いたところを打つセンス。

こんなテクニックを体得しているのって、世界レベルでも彼ぐらいじゃないでしょうか。

思いつくところだと、内山高志や徳山昌守が似ていたかなぁと思います。黒人や白人にはあまりいません。やはり東洋人ならではの体使いなんでしょうね。内山はスピードはなくても、ふんわりとパンチを出し、相手に届くジャブを使い分けていました。そして強烈な右を叩き込むスタイルでしたが、寺地のようなフットワークはなかったですね。パンチは上体の動きで交わし、パンチに力を入れるために地に足をつけていました。


4.寺地の能力を最大限に引き出した京口の存在

寺地はこの試合で、玄人目線で行けば、PFP上位になってもおかしくない存在に覚醒したと思います。

井上尚弥は圧倒的フィジカルとパワーでPFP上位を獲得していますが、寺地やそこじゃないファクターで世界トップにいるボクサーと言えるのではないでしょうか。

それだけのことを寺地はあの試合で証明しましたが、それを引き出したのは、紛れもなく京口のチカラとガッツです。

5ラウンドの最初のダウンから記憶が飛んでいたそうです。あとの2ラウンドはまさに気力で戦っていた。

最後に倒れる時も、顔面からのガードを離さなかった彼の執念にも、でっかい拍手を送りたいです。

両者の今後、そして寺地の世界レベルでのビッグマッチに期待!!

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