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エビデンスに基づいた予防・健康づくりを支援する取り組みが開始――Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(47)

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エビデンスに基づいた予防・健康づくりを支援する取り組みが開始――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(47) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

今回は、エビデンスに基づいた予防・健康づくりの取り組みを後押しする研究への公募についてお知らせします。

私は医師として正しい医療知識を発信したいと考えライター活動をしています。というのも背景として、「〇〇が健康に良い」「〇〇が××の予防になる」というような、エビデンスのない噂が巷に流布されているという事実があります。そのような情報により結果的に疾患の発見が遅れてしまったり、むしろ健康を害するようなものもあったりしますので、正しく啓蒙していきたいと考えています。

AMEDが市民の予防・健康づくりにつながる研究を支援

今回、そのような一助になる研究への公募が実施されます。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)では、令和4年度予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(ヘルスケア社会実装基盤整備事業)公募を4月中旬頃から実施することを告知しています[1]。

医療分野における基礎から実用化までの研究開発が切れ目なく行われ、その成果が円滑に実用化されるよう、AMEDが大学や研究機関などによる研究を支援し、研究開発やそのための環境整備に取り組んでいくことになります。

私自身、勤務医として働きながら、AMEDによる支援で行われた研究に複数回参画した経験があります。自身の研究ではありませんが、多施設共同試験などで関わった経験からすると、研究規模も大きく、また支援される研究の質もしっかり検討されている印象があります。

AMEDは、予防・健康づくりの取り組みとして、行動変容などの非薬物的な介入手法への関心を指摘しています。たとえば、生活習慣病における運動サービスの提供や、女性の健康におけるアプリを用いた健康管理サービスの提供などが挙げられますが、このような新しいヘルスケアサービスが拡大していることが示されています。

他方で、これらのヘルスケアサービスについてエビデンス構築のための研究デザインが十分に確立されていないこと、サービス利用者に専門的・科学的な情報が提供されていないことが実際の社会実装における課題点であるとして注意を促しています。

一般の方が、目の前にある予防・健康に関するサービスを本当にエビデンスがあるかどうか確認して利用しているというケースはそれほど多くないと思います。「著名人がテレビで言っていた」「インターネットで見た」などの理由で、情報源が怪しくとも何となく体に良さそうなイメージだけで利用するケースも珍しくはないことでしょう。今回そのような課題に研究として取り組むための支援として公募がなされたのです。

具体的には2つの分野に関して公募されています。

① 予防・健康づくりに関するガイドライン等の策定

生活習慣病分野、認知症分野、フレイル・サルコペニア分野、心の健康保持・増進分野、女性の健康分野についての内容とし、介入手法には、疾病リスク低減に向けた運動指導・栄養指導・生活習慣指導などの行動変容をデジタル技術の活用を通じて行うものを含めることとしています。

具体的にはスマートフォンのアプリやウェアラブルデバイスなどによりサービス利用者の状態管理や行動変容を行うもの、脳トレーニング・学習によるアプローチを行うもの、認知行動的な介入を行うもの、利用者の状態の可視化により行動変容と継続を促進するものなどとしています。具体例としては、近年承認されたCureAppの禁煙治療用アプリなどがイメージしやすいかと思います。

② 予防・健康づくりに関するエビデンス構築のための新たなアプローチの研究方法の開発

経済性評価や新たな研究デザインでのエビデンス構築・研究方法開発などを課題としています。研究計画は、社会実装上の問題意識、研究目的、必要データ数、変数(経済性評価では医療費など)、指標(生活の質[QOL]、アドヒアランス、アウトカム(患者報告アウトカム[PRO]も含む)、研究デザイン、理論的モデルなどを明確に記述し、データを活用した定量的な検討であることとしています。

今回はデジタルヘルスなどの技術ではなく、それらについてエビデンスをもとに後押しする支援事業についてご紹介しました。私もこれまで複数の国内スタートアップ企業を取材してきましたが、多くの企業、多くの技術が乱立している中で生き残るためにきちんとした開発を行い、それを実装できる実証データを発信するための研究がきちんと行われているかということは大切な視点だと感じています。

【参考】
[1] AMED 令和4年度 【公募予告】「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(ヘルスケア社会実装基盤整備事業)」に係る公募について | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会 (tadashiiiryou.or.jp)の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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