妄想の世界に一緒に浸ろう。【認知症#8】
こんにちは。くんぱす先生です。
内科医として様々な病院で臨床経験を積んでから、出産育児を経て現在は認知症治療に携わっています。
今回は【妄想】のお話です。
【妄想】って言われてもピンとこない方が多いと思います。
医学的にはこう定義されています。
認知症における【妄想】でよくみられるのは、失くし物を誰かが盗ったに違いないと思い込む『物とられ妄想』や、夫が隣人とできているなどと思い込む『不貞妄想』などです。
私は普段の診察の現場で
【妄想による興奮や易怒性(怒りっぽさ)が出現しない限り、その妄想に付き合う】
ことにしています。
こんなことがありました。
回診していると高齢男性の認知症患者さんに呼び止められ、
『戦争は終わったか?』
と問われました。
私は咄嗟に
『終わったようですよ。』
と答えるのでした。
『そうか、やっと終わったか、、』と呟く患者さん。
ここに無理に『〇〇さん、今はもう”令和”っていう時代です。ここは病院ですよ。』などとリアリティーオリエンテーション(以下引用参照)をつける必要はないと思うんです。余計混乱させてしまう可能性もあるかな、と思います。
ただ、それは穏やかな妄想状態のときに限った話です。
先に述べたように【興奮や易怒性がない限り】ここがポイントです。
たとえば、
「人殺し~!!その人を捕まえて!」
など妄想により興奮している状態の患者さんに
「そうですか、あの人が人殺しなんですね。」
と付き合うのは違います。
妄想により興奮している場合は、その元凶となっている妄想を穏やかに訂正してあげることも必要です。そんなときはリアリティーオリエンテーションをつけてあげると安心する場合もあります。
「大丈夫。ここは病院で私は医師です。あの人が怖かったのかしら?私と安心できる場所に移動しましょう。」などです。
家族だからこそ難しい
ただ、こういった妄想に付き合うことは家族だからこそ難しい側面を感じています。
なぜならば、認知症発症前の患者さんのことをよく知っているから。
「なに言ってるの? お母さんのお父さんはもう20年以上も前に亡くなってるでしょ。家に来るわけないじゃない。」
認知症を発症している、と頭では理解していても本人が現実とは違う妄想的発言をすると家族は、程度の差はあれショックを受けます。
でも時間をかけて、認知症を発症した本人のことを理解し寄り添っていくようにして欲しいなと思います。
はっきりとしていた頃もその人ですが、認知症を発症し妄想の世界に生きているのも”その人”なのです。
人が変わったわけではないのです。
本人が必死に生を紡いでいる最中の1つの姿であって、”その人”でなくなってしまったわけではありません。
意外と孫のほうが上手い
認知症発症前から知っている家族は妄想的発言にうまく付き合うのが難しい場合があるとお話しました。
けれど、意外と孫世代は柔軟に対応していたりします。
「おばあちゃん、なにか不安なのかな?大丈夫だよ。おばあちゃんは私のことを分からなくても、私はおばあちゃんのこと変わらず好きだよ。」
と本人を安心させる言葉をさらっと伝えたりできることもあります。
若い世代に学ぶことも多いですね。
色んな色眼鏡をかけて景色を見てくると、色眼鏡を外すことにすごく抵抗があったり勇気がでないことがあります。
そんなときは、意固地にならず若い世代にいい影響をもらえばいいんです。
本人にとってどうかを考える
「変なことまた言ってる。しっかりして欲しいわ。」
ご家族で必死に介護されている家族はこう思うかもしれません。
けれど、その気持ちは誰のための気持ちでしょうか。
そう、自分のための気持ちです。
本人は妄想の世界に生きていて辛そうですか?
戦争が終わった。
亡くなったはずの父親が会いに来てくれる。
穏やかな平穏な気持ちでその妄想の世界に浸っていられるならば、本人にとっても心地いいのではないでしょうか。
妄想は、『分からなくなった、できなくなったことが増えてきた現実から逃避するための自己防衛の一種』ではないかと私は感じることがあります。
それでいいのではないか。
本人が辛そうでなく、周りに迷惑にならないならば、妄想の世界に浸って過ごしていただいて一向に構わない。
これが、現時点での私の考えです。
今読んでいる認知症に関する本
(あらすじ)
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今日も記事をお読みいただきありがとうございました。
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