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患者さんを興奮させているのはあなた自身かもしれません【認知症#9】

こんにちは。くんぱす先生です。
内科専門医として臨床経験を積んでから、出産育児を経て現在は認知症診療に携わっています。


先日、病棟で仕事をしているとこんな場面に遭遇しました。

「高橋さん、高橋さんはどこにいるの?」

車椅子に乗った認知症患者さんがナースステーションに連れてこられ、こんなことを言っています。
するとスタッフ(田中さん(仮))がやってきて、

「はい、高橋ですよ~。私が高橋です。」

   ?


(いや、あなたは”田中”でしょ。)
と内心ツッコミながら見届けていました。

患者さん「高橋さんは?」
スタッフ「はい、私が高橋です。もう少し待っててくださいね。」

嚙み合わない会話。

患「ねえ、ちょっと聞いてくれる?」
ス「(少し離れたところから)はーい、もう少し待ってくださいねー!」

患者さんは徐々に声が大きくなっていきます。
「やめてー!どうしたらいいんですか~!!」

混乱され、興奮し、大声に発展しました。


皆さんはどう思われましたか?
あなたならどうしますか?


患者さんが大声をあげて興奮されているのを見て、話を聞きにいきました。

私「〇〇さん、どうされましたか?大きな声出されてましたか?」
患「ああ、、先生。高橋さんがね、ここに来るって。」
私「そうですか。高橋さんってどんな方ですか?」
患「うちのね、近所の。ピアノの先生。昔からそうなの。私もね、色々と教職していて。」

患者さんの発言内容は辻褄が合わず、どういった内容か理解するのは難しい状況でした。
けれど、「そうですか。」「なるほど。」と相槌を穏やかなトーンで打っていました。
すると、大声だった患者さんはすぐに私と同じトーンで穏やかな口調で話し始め、話したことに満足されたのか昼食を召し上がりに行かれました。

私がお話を聞いていたのは約3分程度。
たった3分です。
時間がなくて話が聞けない、というほど時間はとりません。

ここで学んだのは
【周りの雰囲気や波長に影響されやすい
という認知症患者さんの特徴です。

周りが忙しなく動き、騒音も多い環境では患者さんもソワソワと落ち着かない。
ゆったりとした雰囲気の中で、かけられる言葉も穏やかなトーンだと患者さんの心も落ち着きやすい。
日頃、現場でそう感じています。

もしも、さっきまでは穏やかだった患者さんが焦燥感(ソワソワ)が増して興奮、易怒性(怒りっぽさ)も出現したら、一度自分を含む環境を振り返ってみてください。
・大きな声で会話していなかったか。
・患者さんの意を故意に無視していないか。
・どうせ分からないだろうと、その場しのぎのウソをついていないか。
などです。

入院が必要となった認知症患者さんは総じて、自分のソワソワ・イライラの原因を言葉で伝えることができません。
自分でも理由が分からないし、万が一分かっていてもそれを言語化して伝えることが難しいことが多いです。

今回わたしが遭遇した場面で、患者さんの症状を悪化させた原因として考えられたのは
・『高橋さん』ではない人に「私が高橋です。」と言われ混乱した。
・訴えに対して、離れたところから大きな声で返していた。
・忙しなく人が動く環境に患者さんを留め置いた。
などです。

特に今回私が不快に感じたのは、その場しのぎのウソをついたことです。
はじめに断っておきますが、私はウソ全てが悪だとは全く思っていません。
人を安心させるウソ、余計な心配をかけさせないためのウソのように、誰かの幸せのためのウソは世の中にたくさんあると思います。

しかし、今回のようにご本人の訴えに一度も耳を傾けずに「私が高橋です。」と発言することで幸せになる人は1人もいません。
実際、その発言を受けて生じた混乱が興奮の火種になりました。

傾聴の大切さ

混乱し興奮してしまった患者さんに対して私がしたことは【話を聞いて相槌を打つ】ことだけです。
患者さんの話に自分の意見や感想は何も言っていません。
それだけで患者さんは「あー、やっと話を聞いてもらえた」と満足し、対応してくれた私へ心を開いてくれました。

これを医学用語で【傾聴(けいちょう)】といいます。

【傾聴】

耳を傾けて真剣に聴くこと。
相手の表情、視線、姿勢、声のトーン、言葉の内容、呼吸に意識を集中して聴くこと。
観察、傾聴、確認、共感がカウンセリングの基本姿勢とされている。

ディアケア用語集より引用

はじめて聞いた方もいらっしゃると思います。
医療の現場では精神科に限らず一般科でも大切にされている姿勢です。

お気づきでしょうか?

傾聴=『聴』を傾ける
『聴』という漢字は『耳』と『心』と『目』という漢字からできています。

ただ”耳”を傾けて『聞く』だけではなく、
集中して真剣に”心”も傾け、
“目”で表情や視線を観察する

これが【傾聴】です。



医療者もかなり意識しないとおざなりになりがちです。
逆に臨床経験が浅くても、日々意識してケアすると見違えるほどスキルアップします。

しっかり向き合ってくれた人には患者さんは心の扉を少しずつ開けてくれます。
これが信頼に繋がります。

恋愛においてもそうですよね。
こちらの話を「うんうん、そうなんだ」と聞いてくれるAくん。
こちらの話を遮り、「それより、俺この店行きたいんだよね〜」と自分のことばかり話すBくん。

どちらがあなたを大切にしてくれそうですか?

まとめ

☑️認知症患者さんは特に、周りの雰囲気に影響されやすい。
☑️その場しのぎのウソは幸せを生まない。
☑️傾聴を意識しよう。

患者さんへ傾聴することは机上の勉強より何千倍も勉強になります。
時には人生の大先輩として有難いアドバイスや慰めの言葉、癒やしまで頂けます。

是非、明日から実践して頂きたいと思います。

お読み頂きありがとうございました。

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