Howlin' Wolf – The Howlin' Wolf Album (1968)
こんなことがあっていいのか?なにはともあれ、まずはアルバムのジャケットにしたためられたMarshall Chessの不敵な言葉を読んでみよう。
ロック・キッズに向けた一連の編集盤『The Real Folk Blues』シリーズを手掛け、『The Super Super Blues Band』ではMuddy Watersとの〈夢の競演〉を成し遂げたChessの次なる思惑は、ブルースとアシッドの融合実験であった。彼が運営するカデット・コンセプトはチェス・レーベルのポピュラー部門として実験的な作品を連発していたが、Howlin' Wolfが1968年に発表した本作は特に物議をかもした一枚といえる。
おなじみHubert Sumlinの参加もあったが、コンセプトはWatersの『Electric Mud』とほぼ同様で、Pete Coseyのギター(機嫌の悪いWolfにセッション中何度もなじられた)とMorris Jenningsの爆弾のようにけたたましいドラムが印象的だ。「Moanin' At Midnight」では興味深いアレンジがなされており、Led Zeppelinから逆輸入したボウイング奏法のギターがシタールのような(実際にシタールらしき音も聴こえている)妖しい音を放っている。静かで不穏な雰囲気がビートレスで延々と続く思い切った作りとなった。「Spoonful」や「Built For Comfort」は原曲の持っていたグルーヴを可能な限り重たいファンクに変換しており、ギターもそれに比例するようにエフェクトを加えている。対して「The Red Rooster」ではCoseyとSumlinのギターが呼応する魅惑的なセッションが繰り広げられた。
いずれの曲も一流のプレイヤーによるファンク的解釈の産物だが、その核にはWolfという特異なシンガーが存在している。聴く者がこのギャップを受容できるか否かに、本作の評価のすべてがかかっていると言っていい。だが、ひとたびこのグルーヴを受け入れることができれば『The Howlin' Wolf Album』はあなたのコレクションの中でも唯一無二の存在となるはずだ。
とはいえ、Wolf本人から〈犬のクソ〉と断じられた本作は『Electric Mud』のようなセールスを上げることもなかった。売り上げ不振の原因がジャケットのネガティブなメッセージにあったとChessは分析しているが、どこまで本気だったのかは分かったものではない。