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Rocket 88 – Rocket 88 (1981)

 ほとんど幻に近いグループRocket 88が残したこの貴重なライブ・アルバムは、ブリティッシュ・ロックの名手たちが惜しげもなく自らのルーツをさらけ出した記録であり、かつての英国音楽シーンにブルースとスイングが密接に存在していたことの証明でもある。リズム隊として参加したCharlie WattsやJack Bruceはかつてのジャズマンとしての血をたぎらせており(ノートによれば「Roll 'Em Pete」をプレイしたあとのBruceの指は血まみれだったという)、会場となったハノーバーのクラブはたちまちロック誕生前夜にタイムスリップしてしまった。
 製作の中心はThe Rolling Stonesの最初期に在籍したピアニストIan Stewart(彼はWattsよりも古株のメンバーだった)とAlexis Kornerだ。Pete Johnsonをはじめとした米国の古典で幕を開け、いぶし銀のBruceによるボーカル「Waiting For The Call」、そして最大のブルース・クラシック「St. Louis Blues」へと続く。
 実はStewartが参加したのは「Swindon Swing」のみである。ライターでもあるトランペットのColin Smithは英国ジャズの重鎮であるAcker Bilkの下で活躍した実力派であり、Stewartのピアノとサックスとのソロが三すくみになる熱演は見事なハイライトだ。さらに、最晩年に差し掛かっていたKornerが歌う「Talking About Louise」には、成熟という言葉を超えた形容しがたいブルースの深みが存在している。
 パンクやニューウェーブがロックを飲み込む80年代を目前にこの素晴らしく時代錯誤なアルバムは録音された。あまつさえWattsはこのライブと同じ年に「Emotional Rescue」のドラムを叩いていたのだ。だがたまにはこういったノスタルジックに浸るのも悪くないだろう?