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Miles Davis – A Tribute To Jack Johnson (1971)

 1970年に行われたMiles Davisのセッションは、最もファンキーかつロックに傾倒した刺激的なものだった。翌年発表された本作は、黒人ボクサーJack Johnsonの生涯を描いたドキュメンタリー映画のサウンドトラックのために録音されたものでもある。アルバム制作のためのマテリアルは、プロデューサーであるTeo Maceroの手によっていくつかのテイクから繋ぎあわせられ、あたかもJohnsonを讃える組曲のような構成となった。そのため、世間一般のサウンドトラックと異なり、リストにはたった2曲しか記載されていない。
 サウンドの要はJohn McLaughlinによるギターだ。「Right Off」の冒頭から、彼の放つロック・サウンドがBilly Cobhamのドラムと共に場を作り出し、遅れてDavisのトランペットが飛び込んでいく。後半ではMichael Hendersonのベースと3すくみとなって即興の応酬を繰り広げ、メイン・テーマへと戻る。ラスト5分で、待ち構えたかのようにオルガンをフリークアウトさせるのはHerbie Hancockである。
 このように挑戦的な作りのアルバムとなったのは、Johnsonの型破りな生き方にDavisが少なからず触発されたからだろう。1920年代において白人チャンピオンを叩きのめし、高級車に女性を侍らせ、アメリカの誰よりも自由を体現した彼はいわゆるブラック・パワーの先駆けであった。そうでなければ、James Brownの「Say It Loud, I'm Black And I'm Proud」のベース・ラインをB面の「Yesternow」の中で引用などするはずがない。

I'm black. They never let me forget it.
I'm black alright! I'll never let them forget it.

 映画では冒頭に流れた印象的なBrock Petersのナレーションは、アルバムのエンディングで引用されている。本作は単なるサウンドトラックではなく、Davis自身のファンクへの傾倒や、映画におけるブラック・スプロイテーションの勃興など、同時代の黒人文化の大きな転換の渦の中で生まれるべくして生まれた作品だったと言える。