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「超デジタル世界」について考えてみる

ChatGPTなどの大規模言語モデル・生成AIが猛威を振るう前に出版された本であり,その話題はない.デジタルトランスフォーメーション(DX)やメタバースの表層的な技術紹介ではなく,ハウツウ本でもなく,ハイデガーなどの哲学も参照しつつ,社会文化に踏み込んだ考察がなされており,とても読み応えがある.

超デジタル世界 — DX,メタバースのゆくえ
西垣通,岩波書店,2023

本書は日本のデジタル敗戦の話題から始まる.日本がデジタル後進国となってしまった原因はどこにあるのか.他方,GAFAMを生み出し独走するアメリカはどうなっているのか,どうなっていくのか.社会も文化もまったく異なるのだから,日本がアメリカのものまねをしてもアメリカのようにはならない.では,日本はどうすべきなのか.

そのようなことを,本書「超デジタル世界」を読んで,考えてみることにも価値があるだろう.AIやメタバースなどに興味があって,「どう使うか」が書かれた本や資料を読み漁っているような人に,まったく違う視座を与えてくれる本だと思う.

目次
はじめに
第一章 DXとはオープンネット化
 デジタル敗戦
 行政デジタル化の挫折
 DXの本質
 オープンネットの弱点
 デジタル庁の役割
第二章 メタバースの核心
 超世界のなかのAI
 AIユートピア
 シンギュラリティと超人間主義
 AIディストピア
 メタバースと意味の不在
 ソサエティ5・0
第三章 ネット集合知をうむオートポイエーシス
 インターネットの分権思想
 集合知を問い直す
 ポストモダニズムとデータ科学の矛盾
 新実在論の限界線
 主観が客観をつくる
 ネオ・サイバネティクスと閉鎖性
 オートポイエーシスから基礎情報学へ
第四章 分断深めるデジタル大国アメリカ
 トランプ現象とQアノン
 集合知シミュレーションの教訓
 デジタルな魔術的支配
 多文化主義の陥穽
 没落する中間層
 ポスト・アメリカニズムへの渇望
第五章 日本はデジタル化できるのか
 輸入される知
 トップダウンDXの危うさ
 オモテナシの裏側
 内むきの完璧主義
 日本人とロボット
 安心サブネットと情報教育深化

© 2024 Manabu KANO.

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