「影響力の武器」を身に付けよ!
自分の希望を誰かに受け入れてもらえれば嬉しい.自分が勧めるものを多くの人が受け入れてくれるなら,スーパー営業マンになれる.いや,名経営者かもしれない.他人から承諾や同意を引き出すプロは一体どのようなテクニックを駆使しているのか.アリゾナ州立大学心理学部名誉教授で,著名な社会心理学者である著者が,その種明かしをしたのが本書「影響力の武器(INFLUENCE)」である.
極めて騙されやすい(勧誘に負けてしまうわけで,それを騙されると表現するのはどうかと思うが)人間だったと告白する著者が,なぜ自分は騙されてしまうのか,他人から承諾を引き出すのが上手な人達はどのようなテクニックを使っているのか,という問いに答えようと,実験社会心理学者として研究に取り組んだ集大成が本書である.
めちゃくちゃ役に立つ知識が満載なので,他人から上手に承諾を引き出したい人も,そのような勧誘を断固として拒否できるようになりたい人も,是非,本書「影響力の武器」を読んで欲しい.
著者は,承諾誘導の実践家が相手からイエスを引き出すために使う戦術は何千とあるが,それらは6つのカテゴリーに分類できると述べている.それぞれのカテゴリーは,人間行動を導く基本的な心理学の原理に支配されていて,それゆえに強力な力を持つ.その原理とは,返報性,一貫性,社会的証明,好意,権威,希少性,の6つである.本書では,これらの原理を,1章につき1つ解説している.
これらの原理は,人間が取るべき行動を簡単に決めるために身に付けてきたものと言える.意志決定は重要だが,ありとあらゆる行動の善し悪しをゼロベースで考えて決めることなどできない.そんなことをしていたら,行動する前に何もかもが期限切れになり,それこそ飢え死にしてしまうかもしれない.そうならないために,人間は簡便なルールに従って行動できるように進化してきた.
例えば,返報性.このルールは,他者から何かを与えられたら,自分も同様に与えるように務めることを要求する.つまり,お返しを義務づけるルールだ.このルールがあるお陰で,人間は自分から何かをしたときに,丸損せずに済むこと,それがギブ・アンド・テイクになることを期待できる.だから,誰かに何かをしてあげる(ギブする)ことができる.このルールがなければ,与え損になるかもしれず,それが自分を危機に陥れるかもしれず,テイクする前にギブすることはなくなる.狡猾な人間は,このルールを利用して,些細なことをギブすることで,相手に強烈なプレッシャーを掛けてくる.相手は,自動的に効果を発揮する返報性のルールによって,何かお返しをしなければならない心境に追い込まれる.
一貫性を保つことは,多くの人が持つ欲求である.自分の言葉,信念,態度,行為に一貫性を持たせたいと多くの人が願っている.そうすることで,社会から高い評価を得ることができ,また,日常生活もうまくこなせるようになる.一貫性を保つことで,似たような場面において,いちいち情報処理と意志決定を行う必要がなくなるからだ.自分の貴重なリソースを消耗せずに,対応できる.しかし,狡猾な人間は,このルールを利用して,相手に些細なコミットメントを求め,そのコミットメントと一貫性のある大きな行動を引き出そうとする.無用なコミットメントをしてはいけない.
社会的証明のルールとは,人が何を信じてどのように行動するかは,その場面で他人が何を信じてどのように行動するかによって決まるというものだ.つまり,「みんなやってるから」というわけだ.社会的証明のルールは,状況が不確かなときほど,そして,他人が自分と類似していればいるほど,強大な力を持つ.アメリカのコメディ番組で,わざとらしい笑い声が流されるが,効果があるから流され続けている.自分で判断しようとする意志を持たねばならない.
誰しも自分が好意を感じている人に対してイエスと言う傾向がある.好意を持たせる強力な要因は容姿である.否定しても仕方がない.身体的美しさは強力な武器である.意志決定するときには,もしそれを冷静に行いたいのであれば,好意とは切り離すべきである.
権威からの要求に服従させるような強い圧力が我々の社会には存在する.権威者からの非人道的な命令にも従うのが人間である.この権威の力を過小評価してはいけない.権威者が何かしらの影響を与えようとしているときには,「この権威者は本当に専門家なのか」,そして「この専門家はどの程度誠実なのか」について問う必要がある.なお,権威者や専門家は自分たちにとって不利な情報を小出しにすることによって自分たちの誠実さをアピールしようとするので注意しなければならない.
そして,希少性.説明するまでもないだろう.スイーツ好きな私は「○○限定」と書いてあるスイーツがあればすぐに買う.
本書「影響力の武器」を読み,6つの原理(ルール)を知ることで,自分が騙されるのを防ぐことができるばかりでなく,社会の一員として,他人から承諾をうまく引き出せるようになる(かもしれない).
本書には,ここで紹介したこと以外にも,多くの例が紹介されている.報酬や脅しもそうだ.
とても為になる本多と思う.面白かった.
なお,人を動かすという点について学ぶのであれば,定番中の定番の書籍は「人を動かす」だろう.デール・カーネギーの本は読んでおいて損はない.
© 2021 Manabu KANO.
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