見出し画像

ロシアの侵略戦争を見ながら「ルトワックの日本改造論」について考える

日本の隣国と言えば,中国,北朝鮮,ロシア,韓国などで,どう付き合って(対峙して)いくかが問われる.平和に暮らしていたら平和が続くなんてことはないことは,ロシアのウクナイラ侵攻でも明らかになった.戦争犯罪やジェノサイドという厳しい言葉で非難されているロシアだが,アメリカもNATOも直接的には何もしないし,国連軍も動かない.

本書「ルトワックの日本改造論」の冒頭でルトワックは,

日本は国家戦略として「若返り」を目指すべきである. 

と書いている.日本という国家の未来を担うのは,今を生きている子供たちであり,これから生まれてくる子供たちであり,その数が減っているという事実は国家にとって致命的であるからだ.

日本人が再び幸せを手に入れたいのであれば,再び若返らなければならないのであり,それこそが戦略の最高の目的なのだ.

戦略家であるルトワックはこう述べた上で,日本を救う大戦略を示している.

日本全国で,五歳になるまでの完全な保育・育児の無料化を進めること

この「五歳になるまでの完全な保育・育児の無料化」を実施しているのが,スウェーデン,フランス,イスラエルであり,これらの国では,大卒女性が3人近い子供を産んでいるとされる.少子化は自滅の道であり,それを防ぎ,子供を増やすためには,これくらいのことはしなければならないというわけだ.日本政府はまったくやる気なさそうだけれども.

このようなことが,まえがきや序章に書かれている.

ルトワックの日本改造論
エドワード・ルトワック,飛鳥新社,2019

本書では,第一章で韓国,第二章で中国,第三章で北朝鮮,第四章で自衛隊と諜報,第五章で経済戦争を取り上げている.

韓国は戦後70年経った今でも日本に謝罪を求める.これについてルトワックは,日韓衝突は韓国の問題であり,外交で解決できるものではなく,歴史的事実を直視すべきなのは韓国側であると指摘している.その理由として,第二次世界大戦後の欧州での事例が挙げられている.戦後長らく,オランダとスウェーデンでは反ドイツ感情が強かった.より激しく戦闘した国々がドイツと和解してもなおそうだった.これは戦争中にドイツに協力した後ろめたさの裏返しであると指摘している.人権や環境の分野でスウェーデンが道徳意識高く振る舞うのも反道徳的過去の故だと.つまり,ドイツに対するオランダやスウェーデンが,日本に対する韓国だというわけだ.日本に協力的であった,かつての自国民の行為に対する嫌悪感という心理的な問題が根底にあるため,外交や二国間交渉では解決できず,韓国が歴史的事実に向き合わなければならないと指摘されている.さらに,韓国は対中国同盟の一員にはなれないし,なる気もない.そればかりか,国防意識が欠如しており,自分で自分を守る気もなく,むしろ中国に従属する道を選ぶとまで書かれている.

しかし,朝鮮半島が中国の支配下に入るのは日本にとって望ましくない.ではどのような状態が望ましいのか.ルトワックは,北朝鮮が核兵器を保有する前に有効な手を打たなかった日本の失策を指摘した上で,北朝鮮の核兵器保有を前提とした場合の日本が取るべき(取り得る)態度について考察している.正直,かなり厳しい.

ともかく,日本は自分の国は自分で守るという強い意志を見せなければならない.中国に対しても,北朝鮮に対しても,アメリカに対しても.その覚悟もない国を,アメリカは犠牲を払ってまで守らない.核を持つ国とはアメリカは正面切って戦わない.日本は北朝鮮と中国とロシアとどう対峙するか,みずからの意志を表明しなければならない.そのような状況にあって,テレビ等で攻撃されたら投降しろと他国民に言ってしまう人達がいるのはどうなのか.

ルトワックによれば,ロシアの強みは帝国運営のうまさにあるらしい.ロシアの支配者は「帝国ビジネス」がうまくなければならなず,プーチン大統領が自国民に常に発しているメッセージは以下の通りだという.

「わが国民よ,君たちにはすばらしい料理やファッションは与えられない,リッチにもなれない.でも君たちは帝国の臣民なのだ.君たちは世界最大の国にいる.その国土は戦争によって手に入れたものだ.戦争に勝つということは強さのあらわれである.私の前任者であるエリツィンやゴルバチョフは帝国の領土を失ったが,私は絶対に失うことはないし,むしろ取り返すこともできる.だからこそ,文句は言わないでほしい.なぜなら私が君たちに帝国を与えるからだ.」

このメッセージを信じる帝国臣民を率いて,プーチン大統領はウクライナを取り返しにいっているわけだ.

かつての領土を取り返すという観点では,中国の野望も凄まじい.覇権を目指す中国は,南シナ海で珊瑚礁を潰して基地を建設し,空母を建造するなどシーパワー(海軍力)の増強に邁進している.しかし,シーパワーの増強は,中国にマリタイム・パワーを失わせることになり,最終的に中国は崩壊するだろうと,ルトワックは指摘する.

マリタイム・パワーとは狭義の軍事力だけでなく,関係諸国と友好な関係を持ち,その友好国との軍事的,外交的,経済的,文化的な関係によって形作られる総合的な力のことである.軍艦を寄港させると同時に情報交換をするなど,諸外国と良好な関係を築くことで存在感や総合力を増すものである.

これは1904年のロシア帝国と,第一次世界大戦のドイツが招いた失敗と同じだ.彼らはシーパワーは持っていたが,マリタイム・パワーは持てなかった。

歴史が示しているのは,内政に失敗した国家指導者は対外戦争を開始するということであり,習近平が戦争というギャンブルに手を出す可能性は高いと指摘されている.これに備える必要がある.

ちなみに,戦争や紛争について考えるとき,アメリカは何十年も戦争に負け続けていることに目を向けなければならない.その原因は,健全な戦略的思考と判断力の欠如,そして状況についての知識と理解の欠如であると,ルトワックは指摘している.手厳しい.

さらに,経済戦争にどう向き合うか.日本だけ経済成長せず,円安で一人負け状態になっている.急速に進む少子化に対して無策のままで人口は減り続け,科学技術立国だと謳ってきたものの研究力が低下し続けていることは論文数などからも明らかとなっている.しかし,これまでの政策の過ちは頑なに認めない.日本政府に日本を改造することはできるだろうか.

ルトワックの提言に賛成するか反対するかはともかく,日本人が何も考えずに何も行動せずにいるのに,平和が維持されて経済大国として復活するなどということはないだろう.現実を直視して考えることは必要だ.

© 2022 Manabu KANO.

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?