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「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」その原因を探る

日本社会全体の出生率を動かすのは「大卒かつ大都市居住かつ大企業正社員か公務員」というキャリア女性ではない.非大卒であったり,地方在住であったり,中小企業勤務や非正規雇用であったりする女性が圧倒的多数であり,彼女らが置かれた状況や態度,意識などを中心に考えてこなかったため,日本の少子化対策は失敗してきた.

このように家族社会学者を名乗る著者は指摘する.

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因
山田昌弘,光文社,2020

さらに,日本の少子化対策が失敗してきた原因として挙げられているのが,国民性が日本とはまったく異なる欧米各国の少子化対策を真似たからであるとも指摘されている.

欧米の国々に見られる特徴として,次の4つが指摘されている.

  1. 子は成人したら親から独立して生活するという慣習

  2. 仕事は女性の自己実現であるという意識

  3. 恋愛感情を重視する意識

  4. 子育ては成人したら完了という意識

日本では,未婚の若者は実家に住み,仕事に生き甲斐を求める女性は少なく,恋愛感情よりも人生設計や世間体を重視し,親は成人後の子の生活にも干渉する.このように,日本の恋愛観,結婚観,子育て観は欧米の国々のものとは大きく異なるので,欧州で成功したフランスやスウェーデンの少子化対策を真似ても効果はないのである.

スウェーデンと日本の違いを如実に明らかにしている調査結果が紹介されている.女性/妻の就業形態別に「夫は収入を得る責任を持つべきだ」と思うかどうかを尋ねた結果で,内閣府経済社会総合研究所のレポートに表が記載されている.

衝撃的なほど違う.家計の責任は夫にあると考える人が圧倒的に多い日本に対して,スウェーデンではまったくそうは考えられていない.これだけ意識が違う国に対して同じ施策が有効とはならないだろう.

スウェーデンと日本の比較(内閣府経済社会総合研究所,平成16年4月28日)

日本で少子化を止めるためには,日本独自の特徴を考慮した対策を考えなければならない.少子化に影響しているであろう,日本の特徴として,次の3つが指摘されている.

  1. 将来の生活設計に関するリスク回避の意識

  2. 強い「世間体」意識

  3. 強い子育てプレッシャー

親の愛情と,世間体意識,そして,リスク回避意識の三者が結合して,少子化がもたらされていると考えられる.その状況に対して,欧米型の少子化対策,つまり,女性が働きに出られればよい,とにかく子どもが最低限の生活を送れればよい,という形での支援は「無効」なのである.

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?,p.152

これが本書の結論であると,山田昌弘氏は述べている.

現代の日本の少子化の根本原因は,経済格差が拡大しているにもかかわらず,大多数の日本の若者は中流意識を持ち続け,「世間並みの生活」をし続けたいと思っていることにある.

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?,p.163

「世間並みの生活」を若者が期待できなくなってしまった日本.一億総中流は昔話で,親世代よりも良い生活はおろか,同等の生活すらも期待できなくなり,子育てどころか,結婚も,恋愛すらも控える若者が増えている.

交際相手がいるのは男女ともに少数派で,そのうち過半数は交際相手が欲しいとも思っていない.

18-34歳独身者のうち恋人(婚約者を含む)がいる割合
男性 1992年 26.3% → 2015年 21.3%
女性 1992年 35.5% → 2015年 30.2%

交際相手がいない未婚者のうち交際相手を希望する割合
男性 2010年 53.1% → 2015年 45.7%
女性 2010年 51.9% → 2015年 44.0%

日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?,p.92

未来を見通そうとするとき,その強力な根拠となるのが人口動態である.技術の進歩は速く,政治も不安定で,何が起こるかを予見するのは難しい.しかし,人間は毎年歳を取るし,親から生まれて,いずれ死ぬ.

「2050年の世界」(ヘイミシュ・マクレイ)で未来予測の根拠とされているのも人口動態である.そして,日本の凋落は確実視されている.

本書「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」を読んで,少子化の原因,日本の少子化対策が失敗してきた原因はよく理解できた.本書の最後で有効な少子化対策について検討がなされているが,もはやどうにもならないところまで来ているように思う.

なお,個人的には,日本では少子化を移民で埋め合わせるのは無理だと思っている.そういう国民性でない.

【目次】
はじめに ― 「子どもにつらい思いをさせたくない」日本人
第1章 日本の少子化対策の失敗
(1)世界で「反面教師化」する日本の少子化対策
(2)日本の「少子化対策失敗」の経緯
第2章 日本の「少子化対策失敗」の理由
(1)日本の出生率を動かす人々は、誰なのか?
(2)少子化の直接の原因に関する「誤解と過ち」
第3章 少子化対策における「欧米中心主義的発想」の陥穽
(1)欧米中心主義的発想とは
(2)欧米諸国の少子化の特徴
(3)欧米モデル適用の陥穽――欧米にあって日本にないもの
第4章 「リスク回避」と「世間体重視」の日本社会 ― 日本人特有の価値意識をさぐる
(1)「生涯にわたる生活設計」+「リスク回避意識」
(2)世間体意識――「人からのマイナス評価を避けようとする」意識
(3)強い子育てプレッシャー――子どもにつらい思いをさせたくない
第5章 日本で、有効な少子化対策はできるのか
(1)日本の少子化の根底にあるもの
(2)日本の少子化進展の見取り図
(3)有効な少子化対策とは?
あとがき

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