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「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」

エビデンス・ベースドとか言っても,そのエビデンスを受け入れない人達には何の効力もない.そういう人達はそういう人達で集まり,信念をより強固なものにしていく.個人の嗜好を本人よりもよく把握しているかもしれないSNSのアルゴリズムは,その嗜好に合うように,ますます偏った情報を提供し,その信念をより強固なものにするのを手伝う.論破も無駄.論破しても人の意見は変えられない.もっと頑なにするだけだ.では,人を説得したり,こちらが望むような影響を人に与えたりするためには,どうすればいいのだろうか.そのような疑問に示唆を与えてくれるのが,本書「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」である.

事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学
ターリ・シャーロット,白揚社,2019

著者のターリ・シャーロット(Tali Sharot)は,認知神経科学の研究者で,ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の教授であるとともに,アフェクティブ・ブレイン・ラボの所長である.

本書では,脳科学の観点から人に好ましい影響を与えるための方法が説明されている.とにかく重要なのは,相手の理性に働きかけようとしても無駄だと理解することだ.理性ではなく,感情に働きかけなくてはならない.相手と感情を共有することが大切だ.さらに,一方的に指図するようでは相手を動かすことはできない.人を動かすためには,その人が「自分が選んだ」「自分が関わった」という感覚を持つことが重要である.こういうことは,つまり本書に書かれていることは,恐らく,誰しも何気なく分かっていることだろう.でも,その知見を日常の生活の中で必ずしもうまく使えていないのではないか.

色々と気付きを与えてくれる本だ.

© 2023 Manabu KANO.

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