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ランセット委員会報告を読んで「科学的に正しい認知症予防講義」を受講する

認知症の中でも特に患者数が多く,これからの高齢化社会でますます増えると危惧されているアルツハイマー型認知症を取り上げ,その発症原因となるリスク因子を指摘するとともに,著者が開発した「とっとり方式認知症予防プログラム」で採用されている認知症予防方法を解説している.

現状,認知症を治療して元の状態に戻すことはできず,症状の進行を遅らせるのが精一杯である.このため,とにかく認知症にならないことが重要であり,そのための認知症予防を実践する必要がある.本書が取り上げているのは,治療ではなく,予防である.

とても平易に書かれており,勉強になった.

日本認知症予防学会の理事長が教える科学的に正しい認知症予防講義
浦上克哉,翔泳社,2021

本書「科学的に正しい認知症予防講義」では,
"Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission", Lancet, 396, 10248, 413-446 (2020)
を参照して,認知症のリスク因子を挙げている.2020年にランセット委員会が出した本論文は,認知症に関する文献のメタアナリシスの結果として,教育,難聴,高血圧,肥満,喫煙,うつ病,社会的孤立,運動不足,糖尿病,過度の飲酒,頭部外傷,大気汚染の計12個のリスク要因を指摘し,これらを改善することで,認知症の発症を遅らせたり,発症を約40%予防する効果が期待できるとしている.

40%はかなり大きい.

その内訳は下図(上記Lancet論文から引用)の通りだ.

最大のリスク因子は難聴(8%)で,教育(7%),喫煙(5%),うつ病(4%),社会的孤立(4%)と続く.難聴が最も認知症リスクが高いというのは意外だった.過度の飲酒は1%で,喫煙よりも随分と危険性が低い.

Population attributable fraction of potentially modifiable risk factors for dementia

予防方法としては,運動,知的活動,コミュニケーションの3つの習慣が大事だとされる.それぞれについて,「とっとり方式認知症予防プログラム」での実践内容が紹介されている.

とっとり方式認知症予防プログラム
鳥取大学、伯耆町、鳥取県が連携し、鳥取大学医学部浦上克哉教授が中心となって本県独自の認知症予防プログラムを開発、認知機能、身体機能向上のエビデンスを得たプログラムとして県内で普及を進めています。

この「とっとり方式認知症予防プログラム」の内容については,上記の鳥取県の「とっとり認知症ポータルサイト」で公開されているので,興味がある人はそちらを参照するといいだろう.運動プログラムの動画などが視聴できる.

目次
はじめに―認知症は、ようやく予防できる時代になった
認知症リスク チェックシート

講義1 認知症に対して現代医学ができること/できないこと
1 認知症は『発症しない』ことが一番大事!
2 正しい予防で、認知症になる人を4割減らせる
3 科学的に証明済!「とっとり方式認知症予防プログラム」

講義2 発症原因の40%を占める「認知症リスク因子」の減らし方
1 難聴(聴力低下)【発症リスクの8%】
2 社会的孤立【発症リスクの4%】
3 抑うつ(うつ病)【発症リスクの4%】
4 喫煙・大気汚染【発症リスクの7%】
5 生活習慣病(高血圧、糖尿病、肥満)【発症リスクの4%】
6 運動不足・頭のケガ【発症リスクの5%】
7 過剰飲酒【発症リスクの1%】
8 教育歴(知的好奇心の低さ)【発症リスクの7%】

講義3 「3つの習慣」で認知症リスクを増やさない
1 たった3つの習慣で、12の認知症リスク因子の対策を!
2 認知症予防のための「運動」
3 認知症予防のための「知的活動」
4 認知症予防のための「コミュニケーション」
5 ウィズコロナ時代の認知症予防

講義4 将来の備え編~認知症になっても自分らしく暮らすために
1 二次予防(早期発見・治療)が重症化を遅らせる
2 認知症を疑ったときにすべきこと

© 2024 Manabu KANO.

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