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「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」でマニアックな絵画鑑賞法を学ぶ

東京藝術大学の講義「西洋美術史概説Ⅲ」の教科書.藝大准教授の著者が「偏った作品選択」をしていると明言している通り,ラファエッロ,レオナルド,デューラー,カラバッジョといった有名人が取り上げられている一方,印象派は完全に無視され,私には馴染みのない北欧美術が取り上げられている.やや読みにくさがあるものの,美術作品の新たな見方を学べた.

東京藝大で教わる西洋美術の見かた
佐藤直樹,世界文化社,2021

いつものように図書館で借りて読んだのだが,ベストセラーだけあって,なかなか順番が来なかった.待っている間に,NHKで2回にわたって本書「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」の内容が紹介された.著者の佐藤直樹氏が,藝大での講義を行うというものだった.

ベストセラー『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』の著者、佐藤直樹・東京藝術大学准教授を迎えお送りする新春特別番組!ゲストには、松尾貴史さん、篠原ともえさんが登場。初心者には「美術鑑賞のコツ」を分かりやすく、美術ファンには「そうだったのか!」と膝を打つ解説を、ルネサンスの巨人ラファエッロをテーマにお届けします。ダ・ヴィンチやミケランジェロを手本に自分の世界を作り上げていった技術、版画を使ってヨーロッパに自作を流布させた戦略、アルプスを越えたドイツの画家との交流……などなど!東京藝術大学の全面協力のもと、藝大の授業の様子や様々な施設の紹介も!書籍ともにお楽しみください!

◆番組タイトル
「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」
【第1夜】ダ・ヴィンチを学んだ "加工の天才" ルネサンスの巨人ラファエッロ
【第2夜】"複製版画" でヨーロッパに伝播 ルネサンスの巨人ラファエッロ

先に書いた通り,本書はかなり「偏った作品選択」をしているが,流石にテレビで取り上げるとなると,そのような作品選択は許してもらえなかったようで,ラファエッロが取り上げられていた.私も番組を視聴したが,初めてラファエロのマーケティング戦略を知って驚いた.彼は自分の作品を知らしめるために版画を利用したそうだ.

有名なのは,ヴァチカンの「署名の間」の壁画「パルナッソス」で,本書では以下のように解説されている.

壁画は教皇の居室という私的空間にあったため,よほどの高位聖職者でなければこの傑作を目にする機会には恵まれません.版画という携帯可能な新メデイアによって,ヨーロッパ中の人々がラファエッロの作品を目にすることができるようになったのです.ラファエッロは複製版画によって,国境と時代を超える名声を手に入れることができました.

ラファエロ「パルナッソス」

壁画の威力は凄まじかったようで,「パリスの審判」の右下に描かれた3人の構図は,そのままマネが「草上の昼食」で用いている.マネは版画を真似たらしい.この話はテレビで紹介されていたが,本書には記載されていない.

ラファエッロ「パリスの審判」
マネ「草上の昼食」

本書「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」は,全15回の講義形式で構成されている.その講義を通して,読者に「美術鑑賞のコツ」を習得してもらうことが著者の狙いだ.

バランスよく作品を知るより、個々の作品に対する具体的なアプローチを学んだほうが、実は美術鑑賞のコツを得るには手っ取り早いのです。(中略)通史を頭に入れるようなことはもうやめて、個別の作品鑑賞が全体を見通す力となることを感じてみてください。どの章にも、他の章と関連している作品が必ずあります。それに気づいたら、すぐに頁をめくって自分が気づいた関連作品の図版を確認するようにしましょう。作品同士がどんどん結びつき、頭の中に西洋美術のネットワークが構築されてくるはずです。すると、初めて見る作品でも、自分の目で鑑賞できるようになってくるでしょう。つまり本書は、西洋美術鑑賞の実践のためのテキストブックなのです。

実際,「そういうところに注目するのか」「作者や作品にそんな関係があったのか」「それは美術史家の妄想では…」など様々な気付きを得ることができた.西洋美術に興味がある人は楽しめると思う.

著者の佐藤直樹氏がドイツ・北欧美術史を専門としているため,本書でも北欧美術が取り上げられている.ヘレン・シャルフベックとヴィルヘルム・ハマスホイが主に紹介されているが,どちらも知らなかった.それよりも何よりも衝撃を受けたのが,北欧美術を取り上げた章で,ムンクの「病める子」を紹介しつつ,次のように書かれていることだ.

北欧ではこの時代,枕に伏して快復が見込めない死を待つ子供の絵が流行していました.ムンクはこれを「枕の時代」と呼んでいます.

「枕に伏して快復が見込めない死を待つ子供の絵」を見たいとか,欲しいとか,思うものなのか.暗闇に閉ざされた生活を強いられると,そういう気分になるものなのだろうか.

目次
1. 序章/古典古代と中世の西洋美術
ルネサンス アルプスの南と北で
2. ジョット/ルネサンスの最初の光
3. 初期ネーデルラント絵画1/ロベルト・カンピンの再発見
4. 初期ネーデルラント絵画2/ファン・エイク兄弟とその後継者たち
ルネサンスからバロックへ 天才たちの時代
5. ラファエッロ/苦労知らずの美貌の画家
6. デューラー/ドイツルネサンスの巨匠
7. レオナルド/イタリアとドイツで同時に起きていた「美術革命」
8. カラヴァッジョ/バロックを切り開いた天才画家の「リアル」
9. ピーテル・ブリューゲル(父)/中世的な世界観と「新しい風景画」
古典主義とロマン主義 国際交流する画家たち
10. ゲインズバラとレノルズ/英国で花開いた「ファンシー・ピクチャー」
11. 19世紀のローマ1/「ナザレ派」が巻き起こした新しい風
12. 19世紀のローマ2/アングルとその仲間たち
13. ミレイとラファエル前派/「カワイイ」英国文化のルーツ
14. シャルフベックとハマスホイ/北欧美術の「不安な絵画」
15. ヴァン・デ・ヴェルデ/バウハウス前夜のモダニズム

© 2022 Manabu KANO.

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