東京藝術大学の講義「西洋美術史概説Ⅲ」の教科書.藝大准教授の著者が「偏った作品選択」をしていると明言している通り,ラファエッロ,レオナルド,デューラー,カラバッジョといった有名人が取り上げられている一方,印象派は完全に無視され,私には馴染みのない北欧美術が取り上げられている.やや読みにくさがあるものの,美術作品の新たな見方を学べた.
いつものように図書館で借りて読んだのだが,ベストセラーだけあって,なかなか順番が来なかった.待っている間に,NHKで2回にわたって本書「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」の内容が紹介された.著者の佐藤直樹氏が,藝大での講義を行うというものだった.
先に書いた通り,本書はかなり「偏った作品選択」をしているが,流石にテレビで取り上げるとなると,そのような作品選択は許してもらえなかったようで,ラファエッロが取り上げられていた.私も番組を視聴したが,初めてラファエロのマーケティング戦略を知って驚いた.彼は自分の作品を知らしめるために版画を利用したそうだ.
有名なのは,ヴァチカンの「署名の間」の壁画「パルナッソス」で,本書では以下のように解説されている.
壁画の威力は凄まじかったようで,「パリスの審判」の右下に描かれた3人の構図は,そのままマネが「草上の昼食」で用いている.マネは版画を真似たらしい.この話はテレビで紹介されていたが,本書には記載されていない.
本書「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」は,全15回の講義形式で構成されている.その講義を通して,読者に「美術鑑賞のコツ」を習得してもらうことが著者の狙いだ.
実際,「そういうところに注目するのか」「作者や作品にそんな関係があったのか」「それは美術史家の妄想では…」など様々な気付きを得ることができた.西洋美術に興味がある人は楽しめると思う.
著者の佐藤直樹氏がドイツ・北欧美術史を専門としているため,本書でも北欧美術が取り上げられている.ヘレン・シャルフベックとヴィルヘルム・ハマスホイが主に紹介されているが,どちらも知らなかった.それよりも何よりも衝撃を受けたのが,北欧美術を取り上げた章で,ムンクの「病める子」を紹介しつつ,次のように書かれていることだ.
「枕に伏して快復が見込めない死を待つ子供の絵」を見たいとか,欲しいとか,思うものなのか.暗闇に閉ざされた生活を強いられると,そういう気分になるものなのだろうか.
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