サンティアゴ・デ・コンポステーラ:聖ヤコブが眠る大聖堂のミサ
キリスト教世界三大聖地として崇敬を集めるサンティアゴ・デ・コンポステーラで,十二使徒の一人,聖ヤコブの墓がある大聖堂を訪れ,ミサにも参加してきた.
スペインの北西,ガリシア州にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)の旧市街は1985年にUNESCO世界遺産に登録された.小さいながらも美しい街だ.さらに1993年には,サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(El Camino de Santiago)がUNESCO世界遺産に登録された.聖ヤコブの遺骸が祀られているサンチアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂(Cathedral of Santiago de Compostela)を目指して,世界中の多くの巡礼者がこの巡礼路を歩く.
聖ヤコブ(サンティアゴ)は,ガリラヤ湖の漁師で,弟のヨハネと共にイエス・キリストに従った.ヒスパニアで布教活動を行い,エルサレムに戻った後,ヘロデ・アグリッパ1世によって断首され,聖ヤコブは十二使徒で最初の殉教者となった.その遺体を弟子2人が石の船に乗せて海を果てしなくさまよった末に,この地に辿り着き,遺体を埋葬したのが紀元1世紀半のこととされる.これが聖地の起源である.
伝説によると,9世紀に星に導かれた羊飼いがこの地で聖ヤコブの墓を発見し,遺骨を祭った聖堂が建てられ,そこに教会が作られた.これがサンティアゴ・デ・コンポステーラの起源とされる.
サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の祭壇は絢爛豪華だ.中央の聖ヤコブ像もさることながら,神輿?を担ぐ天使の集団が目を引く.天使たちは黄金の衣を纏って神々しいが,その目は虚ろに見える.焦点が定まっていないようだ.
祭壇の手前には,大聖堂の天井から大きな香炉が吊されている.ミサでは,振子のように,この香炉が豪快に振られる.
通路に突き出した巨大なパイプオルガンも迫力がある.とてつもなく大きい.このパイプオルガンにも多くの天使が飾られている.
祭壇の,向かって左側に,地下に下りる通路がある.入口にはランプがあり,緑色に光っているときに入ることができる.信号機のようなものだ.入口の頭上には,そこが聖ヤコブ(サンティアゴ)の墓であることが記された看板?がある.私は読めないが,ラテン語だそうだ.聖ヤコブの象徴であるホタテ貝も描かれている.
階段を下りると,左手(祭壇の奥手)に鉄格子があり,その奥に聖ヤコブ(サンティアゴ)の墓がある.棺?は銀でできているのだろうか.とても小さい.ここに十二使徒が眠っているのかと思うと感慨深い.
鉄格子の手前は階段になっていて,そこに跪いて祈っている信者もいた.キリスト教徒にとって特別な場所であることに間違いない.
そのまま祭壇の下をくぐり,祭壇の反対側(向かって右手)に出て,順路に従って,左手(祭壇の奥手)に進むと,祭壇に上がる階段がある.ここから先は撮影が禁じられている.階段を上がったところにあるのが,聖ヤコブ(サンティアゴ)の像だ.その背後に通路があり,聖ヤコブの像に触れることができる.ルビーもちりばめられており,それにも触れてきた.
サンティアゴ・デ・コンポステーラに到着して,ホテルに荷物を置いてすぐに訪れた大聖堂では,ここまで経験した.巡礼者が目指す大聖堂で,聖ヤコブの墓を見ることができた.素晴らしい経験だ.
ただ,大聖堂で行われるミサには参加していない.ミサでは,大きな香炉が振子のように振られることで知られる.機会があれば,それも見てみたいと思いつつも,昼間は学会に参加しているため,正午から執り行われるミサに参加できるわけもない.
ところが,夕方に一人で時間があるときに,折角だからと大聖堂近くの巡礼者博物館を訪れた後,最後にもう一度,サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の中を見ておこうと19時過ぎに行ってみたところ,その入口で警備員から「これからミサだ.歩き回ってはいけない.写真撮影をしてもいけない」と告げられた.
なんという幸運か!
大聖堂の中は既に満員で,長椅子は埋まっており,多くの人が柱に寄りかかるなどして立っていた.正面左側の最前列に進み出て,柱の陰から祭壇中央の聖ヤコブ像が見える位置に立った.
ミサが始まり,司教?が祈りを捧げて話をされるのだが,スペイン語あるいはガリシア語なのでまったく理解できない.まわりの人は皆,ところどころで祈りの言葉を捧げている.そのタイミイングも何を言っているのかもわからない.とにかく,ずっと突っ立っていた.
ミサが終わりに近づくと,修道士?がぞろぞろと祭壇近くに寄ってきて,香炉に繋がれた縄を持ち,操って,香炉を床近くまで降ろした.
多くの参拝者がカメラを取り出してビデオ撮影を始めている.いや,撮影禁止だろ⁉と思ったが,警備員らも制止する様子はない.自分も慌ててスマホを取り出して動画撮影した.
煙を吐く香炉を,修道士?らが縄を引いて一気に空中に持ち上げ,左右に振る.最初こそ緩やかだったが,驚くほど豪快に香炉を振る.
修道士らが縄を引いて香炉を振る様は,知恩院の除夜の鐘を思い起こさせるものだった.修道士が床を転がることこそないものの,サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の香炉もとても迫力がある.
こうして,とても運良く,サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂のミサも見学することができた.
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