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本の紹介・読書の記録

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2020年6月の記事一覧

「生かされて。」で信じることの強さを知る

信じることによって,これほどまでに人は強く美しくなれるのかと驚嘆させられる.本書「生かされて。」は,それほどに強いメッセージ性を持つ.ルワンダのホロコーストを奇跡的に生き延びたイマキュレー・イリバギザの体験談を読んで,日本の外のことにも少し関心を持つのもよいかもしれない. イマキュレー・イリバギザ,スティーブ・アーウィン,「生かされて。」,PHP研究所,2006 1994年,ルワンダで,多数派のフツ族によるツチ族の大虐殺が起こった.政府が国民に皆殺しを命じるという形で.

神曲 地獄篇

人類史上最高の文学作品とも謳われる「神曲」の主人公は,作者のダンテ・アリギエーリ本人である.「神曲」はダンテの旅行記であるが,最初の旅先が地獄であるという点が普通でない.ダンテの旅は,地獄の後,煉獄,そして天国へと続く.本書「神曲 地獄篇」には,このような奇妙な旅をすることになった経緯に始まり,地獄の門をくぐって,地獄の深淵にて悪魔大王(サタン)を見物するところまでが描かれている. ダンテ,「神曲 地獄篇」,河出書房新社,2008 1265年生まれのダンテが地獄へ旅立つこ

私の感覚にとても合うヒルティの「幸福論」

人間の幸福について書かれた本 — いわゆる幸福論 — は数多くあるが,このヒルティの幸福論は素晴らしいと思う.少なくとも,私の感覚によく合う.だから良いかどうかは別問題だけれども. ヒルティ,「幸福論」,岩波書店,1961 例えば,「幸福について―人生論」(ショーペンハウアー)にも良いことは書かれているが,厭世主義的で,社会との接触を忌み,孤独を賛美し,全く同意できない部分も少なからずある.どうしても,これが人間の幸福だとは賛同しかねるところがあった. この点について,

「幸福について―人生論」を読んで自分の幸せとは何かを考える

肩肘張らずに,リラックスして読める本だ.ショーペンハウアーだけあって,他の著作と同様に,ゲーテ,セネカ,アリストテレスらの引用が多い.人類史に名を残してきた賢人たちは誰しも同じことを言っているのに,我々凡人は何千年経っても理解しない. ショーペンハウアー,「幸福について―人生論」,新潮社,1958 幸福な生活とは何かと言えば,(中略)生きていないよりは断然ましだと言えるような生活のことである,とでも定義するのが精一杯であろう. ショーペンハウアーによれば,幸福の第一条件

「若きいのちの日記―愛と死の記録」に心打たれる

大島みち子さんの闘病記録である本書は,昨日紹介した「自分を育てるのは自分―10代の君たちへ」(東井義雄)にも引用されており,自分の生き様を見直させてくれる. 軟骨肉腫という不治の病に冒され,顔半分を失いながらも強く生きよう,愛する人のために一日でも長く生きようとした女性が,入院中に愛する青年と遣り取りした書簡集(愛と死をみつめて―ある純愛の記録)と自分の心を見つめて綴った日記(若きいのちの日記―愛と死の記録).この2つを読むことで,彼女の深い苦悩が,そして天性の明朗さがわか

「自分を育てるのは自分―10代の君たちへ」

本書を最初に読んだのは10年以上前だが,当時,子供が中学生になったらプレゼントしようと思った.それほど素晴らしい内容で,これから自分の人生を歩んでいこうとする10代の若者に読んでもらいたい. 本書「自分を育てるのは自分―10代の君たちへ」は,教師であった東井義雄氏の,昭和55,56年に開催された2回の講演をまとめたものだ. 世界でただ一人の私をどんな私に仕上げていくか.その責任者が私であり,皆さん一人ひとりなんです. どうか自分の人生を大切にして下さいというメッセージを

英語論文を書くために「理科系のための英文作法」を参考にする

英語論文の書き方を伝えようとする本は数多いが,本書の特徴は,数理工学を専門とする著者が,安全な英語を書くための規則を論理的に解説している点にある.そのために,文章の読みやすさに影響を与える要因を,様々な「仮説」として提示しているところが面白い.「○○しなさい」に納得して従える人はそれでいいが,「△△なので○○すべきである」と言われないと納得できない私みたいな輩には本書の書き方はとても良い.まさに,理科系人間による理科系人間のための英語論文執筆指南書と言える. 杉原厚吉,「理

教育とは何なのかを「クリシュナムルティの教育原論」を読んで考える

これまでに読んで衝撃を受けた本はいくつもある.その中に,思わず正座して読んだ本がいくつかある.そのひとつがこの「クリシュナムルティの教育原論―心の砂漠化を防ぐために」だ.大学の一教育者として,改めて自分の不明を恥じるばかりで,自分なんかが教師を名乗っていてよいのかと憂慮せざるをえない.いや,教師の務めを果たすべく,精進するほかないと思わされる. ジッドウ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti),「クリシュナムルティの教育原論―心の砂漠化を防ぐために」,コ

政治家に要求される倫理を示したマックス・ウェーバーの「職業としての政治」

倫理も責任も何もあったものではない,口先だけの政治家が目に付く.そういう今なので,「職業としての政治」を取り上げる.国家レベルでの政治について書かれた本ではあるが,心情倫理と責任倫理の2つを区別する考え方は,日常生活の様々な場面での人々の振る舞いを解釈する上で有用だろう. マックス・ウェーバー,「職業としての政治」 本書でマックス・ウェーバーは,政治とは何かという定義から始め,その裏付けが暴力にあることを指摘し,欧米の歴史を参照しながら,政治家が持つべき資質について論じ