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「生かされて。」で信じることの強さを知る

信じることによって,これほどまでに人は強く美しくなれるのかと驚嘆させられる.本書「生かされて。」は,それほどに強いメッセージ性を持つ.ルワンダのホロコーストを奇跡的に生き延びたイマキュレー・イリバギザの体験談を読んで,日本の外のことにも少し関心を持つのもよいかもしれない.

イマキュレー・イリバギザ,スティーブ・アーウィン,「生かされて。」,PHP研究所,2006

1994年,ルワンダで,多数派のフツ族によるツチ族の大虐殺が起こった.政府が国民に皆殺しを命じるという形で.

ホロコーストと言えば,ドイツ人によるユダヤ人のガス室送りが世界的に有名で,当時の様子を今もアウシュビッツ強制収容所などが伝えている.ガス室は,大量殺戮を効率的に実施するために考案された設備だ.一人ずつ殺していては大変だから...

ルワンダでの民族抹殺では銃や爆弾などが使用されたと勝手に考えていたのだが,もちろんそれらも使われたのだが,実際には,何万人という人々が,老若男女を問わず,狂気に満ちた人々に斧,鉈,ナイフなどで切り刻まれて,なぶり殺しにされた.自宅や教会や路上で.

イマキュレー・イリバギザは本書「生かされて。」で,愛する両親や兄弟,友人達が殺戮された様子を伝えている.その描写に,ここまで人間にはできるのかと,本当に気が滅入る.

人が殺されたり苦しんだりする本を読むのは全く好きではないが,この本は特殊だ.本書「生かされて。」は,ルワンダのホロコーストについて被害者が書いたものでありながら,大虐殺について報告することで同情を誘おうとしているのでも,大虐殺を計画・実行した殺人者達を糾弾しようとしているのでもない.そこにあるのは,生きることを望み,自分を癒し,心に平穏を取り戻し,真に幸せになるために,自分の家族を殺した殺人者でさえ許すことができますようにと,ただひたすら祈り,神様を信じ続け,その願いを実現した女性の物語だ.

ルワンダのホロコーストを奇跡的に生き延びたイマキュレー・イリバギザは,自らの体験を語ることを通して,多くの人々に生きる希望を与えている.信仰とは何か,求めれば与えられるとはどういうことか,思いが実現するとはどういうことか,ポジティブ・シンキングとは何か,そして許すとはどういうことか,本書を読めば,それらが重みを持って伝わってくる.

ルワンダでホロコーストが起こったとき,著者は大学生だったという.1994年といえば,ちょうど私が大学院修士課程を修了した年だから,年齢は近い.今この瞬間にも地球上では深い人生を歩んでいる人がいることに改めて気付かされる.

イマキュレー・イリバギザ,スティーブ・アーウィン,「生かされて。」,PHP研究所,2006

© 2020 Manabu KANO.

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