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【ふしぎ旅】高森薬師

 新潟県新潟市北区につたわる話である

 持統天皇の時代(690-697)、大風のため船が沈没しそうになったとき、船頭が船内に安置してある薬師如来を記念して、無事港にたどり着いた。
 薬師如来は三年続けて船頭の夢に現れて「この地にとどまって人々を救うから、山頂に安置せよ」と告げたので、船頭はそのとおりにした。
はたして霊験あらたかで、寺坊が建ち、3000人もの僧が集まるなど新興の中心地として隆盛を極めた。
 土中に2000もの黄金を埋めて、もしも寺が衰えるようなことがあったら、朝日照り夕日輝くところに、一葉のアシ(葦)が生じたら、掘り出すことにしたという。
ある武将が出陣する際、大弘国師が戦勝を祈って護摩を焚くと、弘法大師が爪で刻んだ石仏が5体も出土し、その後も経文が記された石が発見されるなど、霊地として長く信仰されてきた。
(参考文献『豊栄市史』民俗編)

 高森薬師は山の上にある。
 この山は、かつて川であったか海であったか分からないが、ここを宝船が通った時に災難に遭い、その船が埋まって出来たのだという。
 山が出来てから流れてきて生えたのが大ケヤキで2000年以上も建っている。
 高森は「薬師様がいなさるから、悪病が流行らない」といわれる有難い所だ。
 薬師が授けた井戸は、今は埋められてしまったが、絶対枯れない井戸であった。
 村中何百件がくんでも枯れず、良い水なので遠い所の人も汲みに来た。
(参考文献『越佐伝説巡り』) 

(新潟市、「新潟歴史双書I 新潟市の伝説」
高森薬師

 高森薬師は伝説にもあるように田圃の中にある、小山である。
 また伝説にもあるように、この近辺はかつては水辺であったようだ。
 川なのか、海なのか分からないとあるが、新潟はもともとその名の通り
 ”潟”とよばれる池や湖沼が点在しており、そのような水辺であったかもしれない。

薬師山碑

 現在では水田の中にあり、田に水が張られる田植えのシーズンどきには、それこそ当時のような水辺に浮かぶ島のように見えるのだろう。 

高森の大ケヤキ

 大ケヤキはいまだにあり、その存在感には圧倒される。
 水辺の中の小山というだけでも目立つのに、そこに大きな木があるのだから、特別なものと考えられても不思議ではない。
 なおかつ、清浄な清水が沸いているというのだから、当時の人々にとっては、現代でいうところのパワースポットそのものだったであろう。

高森薬師堂

 そのような事から考えると、高森薬師は現代でも信仰を多く集めているが、かつては今とは比べ物にならないくらいほどの賑わいがあったのではないだろうか。
 川の中に浮かぶ宝の山、そして薬師の霊泉。そびえたつ大ケヤキ。
 字面だけ並べても霊験ありそうな感じである。
 現代でも新興宗教ならば、大げさに聖地にしそうな要素満載だ。

高森稲荷神社と大ケヤキ

 さて伝説にある埋蔵金の話であるが、この話自体はあまり語られていない。寺は当時に比べたら衰えただろうが、まだまだ人々の信心は安泰ということだろうか。

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