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【怪異譚】工事現場で
群馬県で、建設会社に勤務する吉さんから聞いた話。
現在よりも、年末となると工事で忙しかった頃の話だ。
慌ただしく現場で作業が進む中、吉さんはある人がいることに気づいた。
つかっさんだ。
つかっさんは、本当は小塚さんという名のだが、皆つかっさんと呼んでいた。
つかっさんは、とにかく勘がいい人だった。自分だけの働きだけでなく、他の者の作業補助なども併せてするものだから、この人が現場にいると、その現場の作業は驚くほど捗った。
ただ、最近は体調不良ということで、少し会社を休んでいた。
「つかっさん」と声をかけようとしたところ、吉さんはあることに気づき思いとどまった。
というのも、吉さんがいる方向からは、道路の植え込みでつかっさんの上半身しか見えなかったのだが、そこは工事中で、大穴が地面に開いているところだったのだ。
だというのに、その大穴に落ちることなく、つかっさんは、その辺りをウロウロとしている。
「おー、つかっさん!」吉さんの近くにいた同僚が、同様につかっさんに気づいたようで、声をかけた。
つかっさんは、ただ笑顔で手をあげてこたえるだけだった。
「お、おい・・・」あわてて同僚に話しかけたところ、同僚は「ああ、分かってる、分かってる。でも、声かけないと、つかっさん、挨拶も無いなんて無礼だ、と言いそうじゃないか」と、普通に答えたそうだ。
案の定、つかっさんが現場に現れた時間には意識不明で病院に担ぎ込まれていたということだ。それから、意識が戻らないまま息を引き取ったという。
つかっさんが現場に現れた辺りから、ブランドもののライターが見つかった。
それは、つかっさんがかつて誕生日に息子からプレゼントされたもので、現場の皆はそれが「つかっさんの宝物」だということを知っていた。
案外と、つかっさんはそれを探しに現場にひょっこりと現れたのかもな、と葬儀の席でみな話していたという。
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