見出し画像

【怪異譚】事故の原因

 現在、会社役員をしている和田さんから聞いた話である。

「危ないなぁ」
 アルバイトで入った遊園地の中のテイクアウトショップ。
 初日で園の見学がてら、オープン前のアトラクションの整備点検を見て、和田さんはそう感じたという。

 とにかく、整備の人たちが慣れすぎているのか、地上5メートルあるモノレールのコースの上を、命綱をつけずに歩いたり、幅1mほどあるコースターのプラットホームの反対側へひょいと飛び移ったりと、はたから見ているとかなり危険なことを淡々としているのだ。

 そうスタッフの人たちは淡々と、仕事をしていた。
 アルバイト初日だからと、かなり元気に「よろしくお願いいたします」と挨拶しても、アトラクションのスタッフは、何も聞こえなかったように、淡々と点検作業をしている。
 案内してくれたアルバイト先の店長は「ここは皆こうだけど、あまり気にしないで」と言ってくれたので、特に自分の態度が原因ではないようだ
 
 遊園地がオープンすると、彼らの態度は確かに変わり、接客に関しては、かなりきちんとしていた。
 安全確認も必要すぎるほどにしていた。それこそお客さんが乗っていない座席までキチンと点検するほどだった。

 2か月ほど、その遊園地で働いていたのだが、不思議なことに二つ気が付いた。
 アトラクションのスタッフはスタッフ同士では、声を掛け合っているが、それ以外の者(和田さんのような屋外屋台のアルバイトや、清掃員など)とは会話を一切していないこと、そしていつでもアトラクションのスタッフがいることだった。

 和田さんがアルバイト先のショップに財布を忘れたことに気づき、閉園後、3時間ほどしてから、その遊園地を訪れたことがあった。
 その時も、コースの上に月明かりに照らされて、人影が見えた。

 次の日、店長に「アトラクションのスタッフって仕事遅くまでやっているんですね」とそれとなく言ったところ、店長は「まぁ、色々とあるからねぇ」と歯切れ悪く返答しただけであった。

 そして、事故はアルバイトをはじめ半年ほどが過ぎた頃に起こった。
 ジェットコースターの開業前の走路の警報装置を外部業者が点検をしているときに、あやまって他の係員が、コースターを稼働させたのだ。

 その事に気づいた業者は慌てて、コースターが来る前に地上から3メートル上の走路から飛び降りた。
 幸い命に別状はなかったが、足を骨折するなどの重傷を負った。

 聞くところによると、過去にも同様な事故があり、死亡した事例もあったという。

 その理由を店長に聞き、和田さんは驚愕した。

  営業していない時間帯にアトラクションの所に、知らない人影が見えるということが多々あるというのだ。
 もちろん、以前はそれを、実際の人間と思い、そのようなものが走路で発見されれば、至急確認に行くなりしていたらしい。
 だけど、確認に行っても、人影のあたりには誰もいない。
 そんなことが続く度に、途中から、それはそういうものだとして無視しようということが不文律としてアトラクションスタッフの間では浸透していたらしい。

 開園していないときにアトラクション内に知らない人がいたら、それは人間でないから無視しよう、と。

 なので、突発的に外部業者などがきて、申し送りが周知徹底されていないと、このような事故につながるのだという。

 和田さんは、この後にすぐバイトを止め、その遊園地もすぐに閉園して、今は無いという。

お読みいただきありがとうございます。 よろしければ、感想などいただけるとありがたいです。