【怪異譚】オフィスビルで

　A side

　いや、先日のことなんだけどさ、今でも思い出すとさ、吐き気がしてくるほど、怖い体験をしたんだよ。
　ホラ、先週、しばらく雨が降り続いた時があっただろ、それまですごく暖かくて、今年の春の訪れは早いねと言っていたのが、みぞれ混じりの雨が降って急に寒くなった時。その時の話なんだけどさ。

　あの日、オレちょっと事務作業が残っていて残業していたんだよ。まぁ、ウチの会社は残業は日常茶飯事なんだけどね、何故かその日はオレ一人だけしか残っていなかったんだよ。

　あのさ、オフィスに一人で残っていたことってある？オレも何回かあるんだけど、すごく怖いというか気味悪いんだよね。普段は、人の雰囲気がする仕事場がさ、夜一人になると、妙に静かでさ。なんか、コピー機の音とか、そんな小さな音までもが、妙に響いたりしてさ。おまけに雨が降る夜とかだと、ホント外の音とか聞こえないんだよね。雨の音に消されて。
　
　まぁ、そんな風に少し脅えながらさ、残務も何とかメドがたって、時計を見たら１１時。さてそろそろ帰ろうかなとか思ってさ。

　ふと、窓の方を見たんだよ。そしたらさ・・・　

　逆さまに人が落ちているんだよ！

　あのさぁ、オレのオフィスってさ、１１階建てのビルの３Ｆにあるんだけど、そんなところにある窓に人影見えたら、それだけで怖いよ、明らかに飛び降り自殺だから。

　で、なぜか落ちているスピードがゆっくりに見えてさ、その飛び降りている人と目があったんだよ。時間にすると１秒も経っていないのだろうけど。５秒、いや１０秒もその人と目があった気がするなぁ。

　そしたらさ、その青ざめた顔の唇が動いているんだよ。
いや、そんな不思議そうな顔しないでくれよ。確かにそんなことあるわけないと思うんだけどさ。飛び降りた人が、オレのオフィスの窓を通る時間なんて、ほんの一瞬のことのはずなんだけどね。でも確かに唇が動いたのが見えたんだよ。

　こんな感じで。
（そう言って、彼は声を出さずに唇を動かしました）

分かるかい、なんて言ってるか？
オレも窓越しだったから、その声は聞こえなかったんだけどさ。

確かに飛び降りした男は言っていたんだよ

ツ　ギ　ハ　オ　マ　エ　ダ

　もう、それ見た瞬間、さすがにオレもどうしたらいいか分からなくて、パニック状態になったんだけど。

　まぁ、とりあえず人が落ちたわけだから、慌てて下の階に行って、外に飛び出したんだよ。
　ところがさ、誰もいないんだよ。飛び降りた形跡とかまるでなし。
と言うか人の気配すらまるでなし。
　で、ビルの警備員の人に聞いたけど、物音一つもしなかったということなんだよな。
　そんなはずはない。確かに人が飛び降りたんだ！とオレが警備員に言うと、警備員はゆっくりと首を振りながら言ったんだ。

　「またですか？」

　何でも警備員の話では、１年に２～３回あるそうなんだな、飛び降りた人を見たという報告が。でも、外に出てみると、誰もいないと。
　何でも、何年か前に、ホントにオレのオフィスがあるビルで、飛び降り自殺があったそうなんだけど、それ以来、毎年この時期になると出てくる風物詩みたいなものだそうなんだ。警備員はもう慣れっこという感じだったよ。
　たださ、あれが幽霊だったとすると、「ツギハオマエダ」と言っていたというのがホントの事になりそうで怖いんだよなぁ。今でも、ふとした拍子に、あの青ざめた顔をハッキリと思い出すんだけどさ・・・

やっぱり会社を変えた方がいいのかな？　　

　B　side

　いや、先日のことなんだけどさ、今でも思い出すとさ、吐き気がしてくるほど、怖い体験をしたんだよ。
　ホラ、先週、しばらく雨が降り続いた時があっただろ、それまですごく暖かくて、今年の春の訪れは早いねと言っていたのが、みぞれ混じりの雨が降って急に寒くなった時。その時の話なんだけどさ。

　あの日、オレちょっと事務作業が残っていて残業していたんだよ。まぁ、ウチの会社は残業は日常茶飯事なんだけどね、何故かその日はオレ一人だけしか残っていなかったんだよ。

　あのさ、オフィスに一人で残っていたことってある？オレも何回かあるんだけど、すごく怖いというか気味悪いんだよね。普段は、人の雰囲気がする仕事場がさ、夜一人になると、妙に静かでさ。なんか、コピー機の音とか、そんな小さな音までもが、妙に響いたりしてさ。おまけに雨が降る夜とかだと、ホント外の音とか聞こえないんだよね。雨の音に消されて。
　
　まぁ、そんな風に少し脅えながらさ、残務も何とかメドがたって、時計を見たら１１時。さてそろそろ帰ろうかなとか思ってさ。

　ふと、窓の方を見たんだよ。そしたらさ・・・　

　窓に人が張り付いてるんだよ！

　あのさぁ、オレのオフィスってさ、１１階建てのビルの３Ｆにあるんだけど、そんなところにある窓に張り付いているなんて、それだけで怖いよ。普通の人間では絶対に、そんなこと出来ないから。

　しかも、その張り付いている人は男なんだけどさ、ブリーフ一枚なんだよ。想像してみてくれよ、ブリーフ一枚の男がニッコリと微笑みながら窓に張り付いている姿を。おまけに外は雨が降っているんだぜ！　

　もうオレは絶対に、悪夢を見ているんだと信じて疑わなかったよ。絶対に普通の人間がする行動じゃないから。

　でさ、その男と目があってしまってさ。まぁそうだよな、オフィスにはオレ一人しかいないんだから。その男がオレを見ていて当然なんだ。で、その男の唇が何やら言ってるようなんだよ。

こんな感じで。
（そう言って、彼は声を出さずに唇を動かしました）

　分かるかい、なんて言ってるか？オレも窓越しだったから、その声は聞こえなかったんだけどさ。

　確かに窓に張り付いていた男は言っていたんだよ

　ス　キ　ダ　オ　マ　エ　ガ

　もう、それ見た瞬間、さすがにオレもどうしたらいいか分からなくて、パニック状態になったんだけど。
　
　まぁ、とりあえず、そいつが何かしでかしてきたら嫌だったので、慌ててオフィスの電気を消して、下の階まで降りて、外に飛び出したんだよ。　もう、その後は記憶無し。とにかく、自分の部屋に早く帰りたいという一心で車を走らせただけ。
　だってそうだろう？男に普通に迫られるだけでも、想像するだけで嫌なことなのに、雨で濡れたブリーフ姿のやつが窓に貼り付きながら、そんなことを言ったんだよ。とにかく、捕まったらオレも終わりだと思って必死に車を走らせたよ。
　それで、気づいたら、いつもの半分の時間で部屋に戻っていたんだけどな。結局その日は、目を閉じると、あのブリーフ男の姿が瞼に焼き付いていていて、全く眠れなかったのだけどさ。

　で、その次の日、会社の人に話したら、「そんなことあるわけないだろう」と大笑いされたんで、特にそういうのが出るというやばい噂は無いみたいだし、残業で疲れたオレが見た妄想と言うことで、片づけたんだけどな。

　たださ、今年オレの会社に入ってきた新人の男が、その男にソックリで怖いんだよなぁ。
　気のせいだとは思うけれども、時々、ウットリしたような目でオレを見ているし・・・

　やっぱり会社を変えた方がいいのかな？