【怪異譚】ユリの香り
新潟県で農業を営む西野さんからきいた話だ。
「私が死んだら、大好きなユリの花を棺に入れてほしい」
生前から、西野さんの母親はそう言っていたそうだ。
だから、母親が、亡くなった時、西野さんは棺の中にはたっぷりのユリの花を入れた。
あいにくと、ユリの季節ではなく、雪が降る日に見送ることとなった。
田舎の家だったので、葬儀は自宅で行った。
家の中には百合の匂いが充満していたが、寒い冬の日に、その匂いには似つかわしくないと西野さんは思った。
季節は移い、春の彼岸となった。
「そういえば、母の作るおはぎは美味しかったな、もう食べられないのか」
台所で、団子を作りながら、西野さんはそんなことを考えていた。
前の日から小豆を煮て、大鍋でご飯を炊き、すりばちで丁寧につぶす。
親戚の人にも好評だったから、”おはぎ屋か!”と思うほど大量のおはぎを朝から作っては、皆に配り歩いていた。
西野さんが、そんな思い出に浸っていると ふと、花の匂いがすることに気づいた。
ユリの花の匂いだった。
仏壇のへの供花は確かに、母の大好きなユリを供えていたが、台所から仏壇への距離は部屋を一つまたいでいる。
それにしては、花の匂いが強かった。
母が花の匂いと共におはぎを作りに来たのかもしれないな、西野さんはそう思った。
西野さんの母がなくなって、すでに3年ほどたつが、春と秋の彼岸には、きまって台所にユリの香りがするという。
「律儀な性格でしたから」と、さも当然のことのように西野さんは言っていた。
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