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【怪異譚】田園
新潟県は米どころと呼ばれるだけあり、都市部の新潟市でも、10分も車を走らせれば、越後平野と呼ばれる広大な田園地帯を見ることが出来る。
他の田舎とは違い、田の間を走る農道は、田んぼのあぜ道などという、のどかなものでは無く、国道かと思えるほどに立派な道路もあり、見渡す限り田園という、非常に見晴らしがいい道で、ウッカリするとスピードを出しがちになる。
新潟市に在住の会社員の松田さんも、そんな感じで営業車を農道で走らせていた。
普段は、一般道を行くのだが、その日は少し帰りを急いでいたせいもあり、多少まわり道にはなるが、信号の無いその農道を選んだのだ。
先ほども書いたように田園だから見通しがよい。
ゆるやかな右カーブ。
普通にハンドルを切る。
その後の記憶が無かった。気づいたら、田んぼの中に車ごと落ちていたという。
幸い秋の稲刈りが済んだ後だったので、大事にはならなかったが、それでもレッカー車やら、修理費などでかなりの金額となった。
不思議なのは、右カーブを曲がって、右側の田圃に落ちたということだ。
つまり、カーブを曲がり切れなかったのでなく、曲がりすぎたのだ。
後に知ったことだが、その農道は自損事故が多発しており、大半が自動車が田に落ちるという事故だという。
それも、田は農道の両脇にあるのに、車が落ちるのは片側の田圃のみ。
松田さんが落ちた側の田圃だけなのだ。
対向車線側だと、今度はカーブを曲がり切れなくて落ちるということだ。
そのことを知っている地元の人は、それこそ農作業の時しか、その道を使わないという話だ。
聞くところによると車が落ちる方の田圃には昔、庚申様が祀られていたとか、大蛇が住む池だったなどと言われているが、その真相は分からない。
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