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【ふしぎ旅】網代の海

 新潟県聖籠町にある網代浜には次のような伝説が残っている。

 その昔、11月26日、網代の海で9人の漁師が刺し網漁をしており、その日は大漁だったので、早めに帰ろうとしたが、急に黒雲が出て、たちまち大荒れとなり、舟が転覆、全員死んでしまった。
 翌年8月13日、漁師たちが夜に網を引いていると、沖の方から9つの明かりが見えてきた。
 最初は何か分からなかったが、近づいてみると、たらい舟にのった漁師の亡霊だった。
 ある者が「おまえたち、いつまでも迷っていないで早く成仏しろ」と叫ぶと9つの舟は集まってきて、ぶつかり合いながら西の空へ消え去ったという。

 とかく、日本海は荒れやすいらしく、嵐がおき、幽霊船が出やすい。
 「北越奇談」では1750年ごろ、孫助なる船頭が漂流時に幽霊船と遭遇したことが記されている。 
 孫助は7人の水夫とともに、北海道松前を目指して船出したが、佐渡沖で船が転覆し流れていた板片を手に漂流していたところ、前方より船が見えてきた。
 何とか助けてもらおうと、孫助が見ると、舟はすでに半ば砕けており、乗っている者は皆、生気がなく、やせ衰えぼんやりとした影のように見えたという。
 その船は孫助に気づくことなく通り過ぎ、そしてしばらく行くと船はガラガラと砕け、消え失せたという。さては幽霊船だったかと気づいたが、その後このような光景は孫助が漂流している間、何度も繰り返し現れ、孫助の気を削いでいったという。

 この他にも、海面から無数の手が現れ、船を沈めようとする話など、海は怪談奇談の宝庫である。
 とりわけ、満足な電灯も無い時代にあっては、夜の海は不安の象徴のようなものであったろう。

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 さて、冒頭の網代の海であるが、幽霊船がたらい舟というところが、なんとも奇妙なところだ。
 と言うのも、たらい舟は、小回りは効くが、沖まで出る漁には向いていない。
 また、漁師たちが亡くなったのも「刺し網」漁という定置網漁なので、比較的、近海であったと思われる。
 にも、かかわらず、船が陸地に戻る時間が無かったのであるから、余程短い時間での事故であったと考えられる。

 実際に訪れてみると、普段は穏やかな海だが、離岸流が激しいところで、あっという間に浜辺から沖合へということも多いらしく、海水浴客の水難事故も起こっているという。

 そのような、物理的な現象の積み重ねが、不思議な結果となり、たらい舟の幽霊船という、普通の幽霊とは異なる、想像するには少し滑稽な珍しい姿となったのではないだろうか。

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