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【怪異譚】美食家

 私の知人に、霊感が強い者がいる。
 霊感が、というと勘違いされるかもしれない。
 彼は幽霊などを見たことがないし、霊的な経験なども特にしたことが無い。

 ただ、彼はいわゆるパワースポットと呼ばれる所や心霊スポットと言われる所で食事をすると、食べている物とは異なる味がするという。

 それは、不思議なことではなく、多分、音に色が見える人がいるような共感覚の一種であろうと彼は言う。
 なんとなく、そういう所には独特な空気というか、今でいうところのオーラと言われるものがあり、それを味覚として感じ取っているだけのことだ、と。

 そのような理由で、彼にとっては、それは霊感では無いそうなのだが、彼が特殊なのは、そういうパワースポットで、白米の握り飯を食べるのが、何よりのご馳走だと思っている点だ。
 なんでも「どうせ味がするんなら、それをおかずにして、飯を食うのが一番美味い」というのが、理由らしい。

 かくして、彼は神社やら、寺やらでおにぎりを食べている。

 彼が言うには
 「一番、美味かったところは、長野県の戸隠神社の奥社。
 非常に上品な味だけど旨味が奥深くて、あれなら飯、何杯でもいける。
 不味かったところは、某新興宗教の聖地と言われるところで、とにかくドブ臭くて、あそこを聖地にしているのだから、ご利益も眉唾物だと思う」
 だそうだ。

 そんな中でも、彼にとって忘れられないところがあるという。

 「パワースポットでは無いんだけどな、某テーマパークでお弁当持ち込み禁止のところがあるだろ。
 あそこにコッソリと飯を持っていったんだよ。
 で、食べたらな、美味い、不味いじゃなく不思議な味なんだよ。
 化学的な味なんだけど、病みつきになるというか。
 味は全然違うけど、”やめられない、とまらない”そんな味なんだ。
 あ、これヤバい。中毒性がある、と危険を感じて、食べるのを中止したほどだ。
 あそこ、何度も行きたいと思うのはそういう理由で、弁当持ち込み禁止なのも、それがバレるのを避けてるからじゃないのか」

 彼は、そう言っていたが、”そんな特殊な味覚をもっているのは、お前だけだ”というツッコミを私は口には出せなかった。

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