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【ふしぎ旅】夜釜焚と云ふもの

新潟県上越市に伝わる話である。

 昔、高津村に塩坪という家があった。
 そこの使用人の男が、ある日、高田へ用事に出かけ、夜中に一人で帰ってきた。
 村はずれの四辻までくると、道の真ん中に青い火がちょろちょろと燃え上がっていた。
 その火は時々、燃え上がったり消えたりしていた。

 ちょうどお盆の頃だったので、夜遊びに出た村の若い衆が自分を驚かそうといたずらしているのだろうと思い、こっそりと火の出る方へと歩いて行った。
 近づいてみると、隣の次男によく似た男が体育座りで座っていたが、その股の間から青い火が燃え上がっているのだった。
 男が驚き、声をあげると、怪しい男はにっこり笑ったかと思うと、煙のように消えてしまった。

 翌朝、使用人は早朝より、山に草刈に出かけた。
 そこには、すでに一人の男が来ていて熱心に草を刈っていた。
 「おはようございます」と声をかけると、振り向いた男は、昨夜の怪しい男だった。
 使用人の男は驚いて、逃げ帰ろうとすると、怪しい男が寄ってきて「昨夜のことは、絶対に人に話すな。話すと、命がないものと思え」と言い、煙のように消えた。
 あまりの恐ろしさに逃げ帰った彼は、それから十日あまりも床についていたが、ついに主人からひまをもらって郷里に帰った。しがし、やがて気が変になり死んでしまったという。
 その後、このようなことは度々おこり、何人もが怪火を見たが、この人たちはいずれも三年以内に気が狂って死んだという。
 この付近は、昔の戦場で、戦死した武士の霊魂が成仏できず、怪事をおこすのだろうと言われた。

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 新潟の幽霊話というと、とりあげられることが多い、この話は「北越奇談」に乗っている。

 火の玉の話なの話だが、よくよく、伝説を読み返すと、奇妙な点がある。 
 火が座っていた男の股の間から出ていたという点だ。
 さらに男がにやっと笑ったというあたりも、不気味ではあるが、少し卑猥にも思える。
 これは、もしかしたら、隣の次男が、夜中に道端で手淫をしていたという猥談が、なぜか怪談と混ざったのではとも思えてくる。

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 高津村は、現在の高士地区になる。
 幽霊が出たという四つ辻が、どこにあるかは今となっては分からない。
 村の外れの四つ辻と言うが、昔ながらの街道辻というと、白山神社跡があったというこの辺りなのかもしれない。

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 あるいは古い石碑などがあったので、交番近くのこのあたりかも知れないが、四つ辻はなかった。

 なお塩坪という者、非常に珍しい苗字ではあるが、まだ新潟県内には何軒かあり、私の知人にもいる。
 確かに、彼は上越市に本家があるとは言っていたし、この怪談のことも父親から聞いていたとは言っていたから、案外と信憑性がある話なのかもしれない。

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