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【怪異譚】山菜取り

 30年ほど前、高校の授業の合間の雑談で理科の足立先生がした話。

 ちょっと前に、富山の田舎に帰った時に、山菜取りに行ったんだよ。
 ウチの田舎ってさ、本当に田舎だから、その辺の山って、全部私有地で。うん、ウチも一つ山持ってる。それを皆で共同管理しているって感じなんだよ。

 それで、朝から山菜取りに入って、午前中にコゴミ、タラノメなど、駕籠一つ分取って、さてと帰ろうかなと思ったところ、にわか雨が降ってきたんだ。

 あわてて帰れば、多少濡れながらでも戻れたんだろうけど、そこは勝手知ってるところ。
 そういや、この辺りに作業小屋あったなぁ。そこで雨宿りするかと思って、作業小屋に行ったんだ。作業小屋って言っても、今はほとんど使ってないんで、物置になっているんだけど。
 まぁ、雨はしのげるし、いいかと行ってみると、何やら見慣れないものが置かれているんだ。食べ物のゴミとか、新聞とか。

 そういや、家の者が最近、よそ者が入ってきて困るとか言っていたなぁ。都会の人は、山にも持ち主がいるとか知らないで、勝手に山に入って山菜を根こそぎとって、山を荒らすんだよなぁ。会ったら、一言、言わないと、と思っていたんだ。

 にわか雨か、と思っていたんだけど、中々降りやまないので、少し横になるか、と思ってウツラウツラしていたら、何か外で太鼓のなる音がして目が覚めたんだ。
 気づくと、1時間ほど経って雨はすっかり上がっていた。

 ただ、太鼓の音は夢などではなく、一定のリズムで聞こえてきた。
 そして、少しづつ目を覚ますと、今度は低いうなり声のような、呪文のような声がいくつもするのが分かった。
 なんだろうと思って、小屋の外へ出てみると、何人もの白装束の人たちが、先ほど聞こえた呪文のようなものを唱えながら、山を登っていくんだな。
 おいおい、まだ夢の途中かよ、と一瞬思ったが、それより恐怖の方が先だったらしく山全体に響くような大きな悲鳴をあげていた。

 その悲鳴に驚いたのか、白装束の集団は蜘蛛の子を散らすように慌てていなくなった。

 俺も、おっかなびっくりで、慌てて実家に帰り、今あったことを話した。
 そうすると、家の者は、さも当然のように「だから、よそ者が入ってきてると言っただろう」と答えた。
 聞くところによると、よそ者は都会の山菜取りではなく、なにやらおかしな宗教の団体で、ウチの山が、その宗教の聖地になっているらしく、勝手に入ってくるんだとか。
 捕まえようとしても、すぐに逃げるし、確かな証拠もないしで、どうしようもないんだとか。
 いやぁ、それにしても不気味だったなぁ、あんなのに山で出会ったら腰抜かすよ、ほんとに。

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