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【怪異譚】新潟バイパス

 最近の自動車は、事故防止のために様々な機能がついている。

 急ブレーキ時のハンドルロックを避けるABSや、車間距離を制御するもの、そして前方の障害物への衝突の危険があると、それを教えてくれる衝突被害センサーや、さらにそれでも危険である場合、自動でブレーキがかかるものもある。
 もちろん誤作動で、前方に何もないのに警告がなったり、時には自動制御ブレーキがかかったりすることもある。

 そんな車にまつわる話を、群馬県から新潟県の会社に就職した沼田さんから聞いた。

 新潟に来て、沼田さんは、毎日、自家用車に乗って通勤していた。
 通勤する時に沼田さんはいつも、新潟バイパスと呼ばれる高架道路を使っていた。

 この道路は、高速道路では無いが自動車専用道路であるので、人や自転車などは、道路に立ち入ることができない。また、信号がなく、ほとんど高速道路と変わらない。

 しかし、この道路は通勤時間となると大量の車で混雑しがちになる。
 その車の多さは、時に全国一になるほどである。

 混雑する時間帯を避けて、通勤すると、車の流れはスムースに進むので、沼田さんはいつも、少し早めに家を出て、決まった時間帯で通っていた。

 3年位前であろうか。沼田さんは、新しく車を購入した。それは、今まで乗っていた車と異なり、冒頭にもあげた様々な事故防止機能が付いた車だった。

 早速、その新車で通勤していると、突然に車内に警告音が鳴った。
 それは、前方に障害物があると知らせるものだった。

 先にも書いたが、沼田さんは、車の混雑する時間帯を避けて、運転しているので、周囲に他車は、極めて少ない。
 人や自転車なども入ってくることが出来ない道路だ。障害物があれば、たちどころに分かる。

 しかし、警告音は鳴っている。念のため、軽く減速したが、別に何かにぶつかることもなく、普通に運転できた。

 出社後、すぐにネットで警告音について調べてみたが、センサーの誤作動は、よく起こりえることだと分かった。
 帰りの道では警告音が鳴ることは無かった。

 しかし、次の朝の出勤時、前方に障害物があるという警告音が、また鳴った。それは、昨日と同じ場所であった。

次の日も、同じ場所で、前方に障害物ありの警告音。

 3日も続けて、同じ場所で、何も無いところに前方に障害物ありの警告音の誤作動。
 少し不気味ではあったが、そういうものなのだろうと沼田さんは思うことにした。

 それからも、前方に障害物ありの警告音は同じ場所で鳴り続けた。他で警告音の誤作動が起こることは、ほぼ無かった。

 ある日、沼田さんは、少し寝坊して、いつもよりも遅い時間に出勤することとなった。
 先にも書いたが、新潟バイパスの通勤ラッシュ時は、非常に混雑して車の流れが悪くなる。その時も、バイパスというのに渋滞に近いほどのノロノロ運転が続いていた。

件の場所に来た時、警告音がまた鳴った。

 しかし、いつもと違うことに気が付いた。
 緩やかに、時には停止しながら進む、自分の車のフロントガラスの目の前、ボンネットの上を、一体、また一体と白い影が歩いているのだ。

 影?
 いや、それは明らかに人間であった。何か疲れている表情も見て取れた。
 ただ、何を着ているのかが分からない。白いということだけが分かった。

 時間にして、多分1秒くらいの一瞬であったろうが、その間に、警告音と共に、緩やかに、その人影は進んでいった。

 警告音が止み、人影も無くなったが、車の流れは相変わらず悪かった。
 疲れているのだろう。沼田さんは、そう考えて、その人影について考えることを終わらせた。

 その後、相変わらず、その場所で、誤作動の警告音はなっているが、たまに通勤ラッシュに巻き込まれた時でも、人影を見ることは無いという。

 また、後に知ったことだが、警告音がなる辺りは、新潟バイパスでも、心霊関係の噂が絶えないところで、新潟バイパスの中でも、唯一、その区間だけ、追い越し禁止の車線だという。

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